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【コラム】海外通信員

高木喜朗 成長過程の真っ只中

[ 2012年5月10日 06:00 ]

ローダ戦で、攻め込むユトレヒトの高木善朗
Photo By 共同

 「このままシーズンが続いてくれないかな」。

 オランダ、エールディビジ最終戦。第34節のローダJC対ユトレヒトの試合が終わった後、高木喜朗は思わず口にしていた。

 「あと2試合くらいあった方が良かったんじゃないかなあ、と思います」。

 高木は、この日リーグ戦初ゴールを決めた。後半4分、左サイドバックのズロからの少し雑な、強めの横パスを受けた高木は後ろ向きにコントロールすると、反転しながら寄せた相手のチェックをかわして体を前に入れる。そのままドリブルで、持ち上がり、ペナルティーエリアへ。ディフェンダーが寄せてきたところで、左足でシュートを放った。

 「結構、コースが切られていたので。(DFの)股を狙おうと思っていました」。

 狙いどおりディフェンダーが出した足の下を通ったボールは、さほど勢いはなかったものの、GKの届かないゴール右下隅へと転がり込んでいった。

 「(ボールの勢いは)遅かったですね。でもゴロでは狙っていましたけど。正直、止められるかなと思いましたけど、入って良かったです。自分には珍しい形のシュートだったんじゃないかなと思います。まず左に持っていくことも珍しいし、振りも大きくなってしまうので。あのゴールシーンでは、小さく振れたというのが、一番良かったことだと思います」。

 高木のポジションは左ウイング。右利きの高木は、外から中、つまり左サイドから右へとボールを持ち出しながら右足でシュートを打つ形を、今季何度も見せていた。これまでの試合でも決定的なシュートシーンがあったが、力んだり、少々運がなかったりで、得点にはなっていなかった。

 「あっさりしてましたね」。

 初ゴールの味を、高木は振り返る。

 「なんか、入る時は結構あっさり入るなという感じでしたね。でも、単純に良かったです。最終戦でモチベーションを落とさずにやれたのは良かったですし、初ゴールを取っていなかったんで、それもすごい、いいモチベーションになっていました。やっぱり、今年1点取っておくのと、来年に初ゴールを目指すのでは違うので」。

 ユトレヒトはアウェーながら、3ー1で勝利した。前半46分のゲルントの先制点は、右サイドで高木がキープし、ゲルントにボールを預けたところから生まれている。ゲルントが中央に持ち出して、強烈なグラウンダーのシュートを放つと、GKがボールを抑えきれずにゴールへと転がり込んだ。リーグの公式サイトでは、高木にアシストが付いていた。高木は1ゴール1アシストということになる。

 これで高木は今季15試合出場。最終節まで7試合連続スタメン出場で、1ゴール6アシストという結果を残した。6アシストはチーム最多だ。

 「(オランダに来て)最初は出れないシーズンでした。ヤングリーグ(2軍戦)とかにいっぱい出て。最初はオランダに慣れることに精いっぱいで始まったシーズンでした。最後いい形で終われて、最後に成果が出たというか。良いシーズンだったと思います」。

 リーグ前半戦はなかなか出番が得られなかった。スタメンの座を勝ち取ったきっかけとなった試合が、3月30日のホームゲーム、対エクセルシオール戦。3ー2で勝利した試合だった。83分に味方のアザーレが2枚目のイエローカードで退場するなどのアクシデントがある中、開始直後はウイングとして、途中からはボランチとして、一人少なくなった分もカバーするかのように走り回った。その奮闘が認められて、マン・オブ・ザ・マッチに選出された。以後、高木はスタメンに定着する。走って走って勝ち取ったスタメンの座だった。先発に名を連ねるようになると、アシストを重ねていった。だがゴールだけが決まらない。

 「あと1試合、決めたいですね」。

 第33節、ホームでのフィテッセ戦の後、高木はそんなふうに言っていた。

 「僕は来年もこのチームに残るので。来年のことを考えてというか。シーズンの最後まで全力でやるということがプロだし、それが来年の自分に繋がります。監督も多分変わらないんで、常にアピールしていくことが大事だと思います」。

 そして、最終節で有言実行のリーグ戦初ゴール。高木はまさに上り調子の真っただ中にあった。

 「良い状況で(シーズンが)終わっちゃうのも寂しいですね」。

 だからこそ、冒頭のような言葉がポロッと出てくる。まさに成長過程の真っ只中にいる高木はサッカーに飢えているようだった。オランダでの今シーズンは終わった。だが、トゥーロン国際大会へ参加するUー23日本代表に初召集されることになりそうだ。好調なだけに、タイミングとしては面白い。(堀秀年=ロッテルダム通信員)

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