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【コラム】海外通信員

ローマ育ち インテル・ミラノ、ストラマッチョーニ監督は来季も続投できるか!?

[ 2012年5月4日 06:00 ]

青色のスーツとインテルのエンブレムが入ったネクタイを着て、采配をするインテル・ミラノのストラマッチョーニ監督
Photo By AP

 陽気でお調子者のナポリ人、気ぜわしく表情の硬いミラノ人、島だけに同郷意識がやたら強いシチリア人と、イタリア人も地方、都市によって千差万別である。

 その中でローマ人というのは、何か面白いことを言ってウケを取るのが義務と考えているかのような、妙なウイットがある。あのASローマの主将にしてクラブのシンボル、フランチェスコ・トッティは、方言丸出しの口調だけでなく、ジョーク好きという意味でもコテコテのローマ人。CMキャラクターとして起用される時も、そういった三の線丸出しだ。

 そしてインテルの新監督に就任した36歳、アンドレア・ストラマッチョーニ監督もローマ出身、そしてコテコテのローマっ子である。まあとにかく、”いらんこと”を言って笑わそうとするのが好きだ。「トップに就任し、プリマベーラの選手たちの指導から離れたことに未練はないかって?正直にお答え申し上げる。ないね!」「ベンチに座って新たな発見があったか?いや、試合に集中するし。ただ試合前、選手紹介のアナウンサーはピッチサイドで喋ってる事が分かって『すげえ』って思った」「(インテルが獲得すると噂の)ラベッシについて?医療スタッフに文句いわないといけないな。そんな選手の存在はきいてない」「モラッティ会長と来季について?金銭面の希望が合えばね。私の12人の代理人が今頑張って交渉してくれている」「(試合後の記者会見が終わり)いや、まだ終われない。日本人の記者さんたちからの質問がまだだろう。あ、でもユウトは試合に出てるからもういいのか」

 実はこのローマ出身というのが、指導者としての彼のルーツを語る上でも重要なポイントとなっている。膝の故障でプロ選手としての夢を若くして断たれたストラマッチョーニは、24歳の時から地元のローマでジュニアユース年代の指導を開始。地方レベル、または全国レベルで好成績を収めると、2005年にASローマで技術主任を務めていたブルーノ・コンティからスカウトされる。そしてローマの育成部門で6年間仕事し、3つの違うカテゴリーを指導して2度の優勝経験を納めた。コンティは彼を育成部門のトップカテゴリーであるプリマベーラ(ユース年代)に引き上げたいと考えていたのだが、当時のクラブはアルベルト・デ・ロッシ監督(現ローマ副主将を務めるダニエレの実父)続投を選択。ストラマッチョーニは契約切れを迎えるが、そこに目をつけたのが、当時育成部門を強化中のインテル。ようは育成部門にあって、彼はビッグクラブからヘッドハントの対象となった大物だったのだ。11年7月から就任すると、2012年3月にはチャンピオズリーグのユース版として企画された国際大会「ネクストジェネレーション・シリーズ」で優勝をおさめた。

 そんな彼が、チームの危機にあってトップ昇格。「自分よりも年上の選手がいるようなチームを、この若造にまとめきれるわけがない」という見方がファンにも地元記者の間にも強く、それは確かに未知数の部分だったが、少なくともコーチ業においてはこの道10年以上の実績を持っていた。しかも理論派として定評を確立していた若き指導者は、「自分の知らないことは無理にやっても仕方がない」と、恐れずに自分の戦術コンセプトを掲げる。選手は付いて来た。「ワントップの横に、攻撃的なタレントを2人は置く。そうでないとチームのバランスが守備に振れすぎる」と提示し、迷走状態だったチームに『攻撃』という明確な指標が与えられ、モチベーションが喚起されたのだ。その結果は、就任後6戦4勝2分けという功成績。これまで戦力外同然だったサラテを起用しキレを取り戻しているが、その彼も「やっとインテルが攻撃的になった。このチームの選手たちを活かすにはこういう闘いをしないといけない」と心酔している。

 また長友の扱い方を見ていても、筋は通っていると感じる。就任当初スタメンからは落としたが、「イタリアのサッカーでは1対1が重要で、その上ではサネッティとキブに保証があったから」と語った。しかし自分の信念だけに固執せず、選手のコンディションが上がってくればチャンスを与える。そして長友を投入すれば、彼の持ち味を無理なく出させる。「前のMFが攻めていれば引け、逆にMFが引いていれば前に出ろ」と指示も明確で、逆サイドに超攻撃的なマイコンがいることを必要以上に気にすることなく、上下動をさせてもらっていた印象だ。

 就任当初は「ビエルサのつなぎ」「グアルディオラのつなぎ」などと盛んに書き立てられていたが、そんな噂はすっかり消えた。今やモラッティ会長自身が「彼のパーソナリティと気持ちの強さは素晴らしい。成績も出ているし、彼の続投に私の気持ちは傾いている」と来季以降もストラマッチョーニ体制でいく考えを述べている。もっとも終盤にはミラン、ラツィオとの厳しい2戦があり、それ次第でモラッティの考えはまた変わるかもしれないが…。(神尾光臣=イタリア通信員)

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