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【コラム】海外通信員

アビダルの病気とともに闘うバルサ 終盤のスペインリーグは混戦模様

[ 2012年3月30日 06:00 ]

肝臓移植手術を受けたバルセロナのDFアビダル(右)
Photo By AP

 フランス代表でバルサのDFエリック・アビダル(32)の病気再発のニュースが3月15日に流れ、バルサファンばかりでなく、スペインサッカー界に衝撃が走った。アビダルは肝臓移植手術が必要で肝臓提供者が決まり次第、手術を行うとバルサが発表したからだ。アビダルは、2月29日の親善試合ドイツ-フランス戦(1-2)で恥骨炎を負ってバルセロナに戻ってからリハビリを続けていたが、恥骨炎が悪化したのではなかった。

 くしくもアビダルはちょうど1年前の10年3月15日に肝臓に腫瘍が見つかり、3月17日にバルセロナ市内のバルセロナ・クリニック・グループ病院でジョゼップ・フステル・オブレゴン医師の執刀による摘出手術を受けていた。当初、アビダルの復帰は順調でも今季プレシーズンが始まる7月中旬頃と言われていたが、驚異的な回復を示し、昨年5月3日の昨季の欧州CL準決勝第2戦バルサ-レアル・マドリード戦(1-1)の後半45分に交代出場し、約1か月半ぶりに戦列復帰してバルサファンから大拍手を受けた。そして5月28日にロンドンのウェンブリー・スタジアムで行われた欧州CL決勝バルサ-マンチェスターU戦(3-1)にスタメン出場し、キャプテンのプジョルを中心としたチームメイトの計らいで、欧州CL優勝杯を受け取ったのは記憶に新しい。

 アビダルは復帰してからこれまでバルサの公式戦38試合出場しており、今年2月3日にバルサと13年6月末(+オプションで15年6月末)までの契約延長を行ったばかりだった。しかもバルサはその3月17日のスペインリーグ第28節セビージャ-バルサ戦(0-2)に勝ってアビダルに勝利を捧げたが、驚いたことにアビダルは試合翌日のバルサの練習に姿を現し、チームメイトの激励に感謝するだけなく、一緒に練習に加わったのだ。

 その上、アビダルは最後にプレーした2試合(2月26日のスペインリーグ第25節アトレティコ・デ・マドリード-バルサ戦(1-2)と2月29日の親善試合ドイツ-フランス戦(1-2)の時点で既に肝臓移植手術を受けなければならないことをドクターから知らされていたという。また、バルサのロセル会長、スビサレタ・スポーツディレクターは、アビダルが再び肝臓手術を受ける可能性があることを承知で契約延長を行ったことが明らかになった。

 アビダルの肝臓移植手術の肝臓提供者候補には年齢、フィジカル的にも健康で血液型も同じアビダルのおさななじみの親友が申し出ているとか、アビダルのいとこが候補に挙がっているとの噂だが、6~8時間もかかる移植手術を受けた後、約3~4か月で普通の生活を送れるようになると言われているが、その後、プロ選手として高いレベルでサッカーを続けることができるかどうかはかなり難しいとみられている。

 一方、今季の欧州CLのベスト8にバルサとレアルの2チーム、欧州ELのベスト8にバレンシア、ビルバオ、アトレティコ・デ・マドリーの3チームが進出するなど、スペインリーグのレベルの高さを披露している。そのスペインリーグは残り9試合となり終盤戦を迎えているが、上から下までかなりの混戦模様となっている。リーグ優勝争いはレアルが相変わらず優位ではあるが、バルサがこれまでの10ポイント差から6ポイント差に詰めてにわかに逆転優勝の可能性が出てきた。チームを率いて2年目に絶対の自信を持っているレアルのモウリーニョ監督は、過去のポルト、チェルシー、インテルで2位と3ポイント差以上の首位からリーグ優勝を逃したことがない。しかし過去のスペインリーグで10ポイント差から逆転優勝したケースはないが、03~04シーズンにバレンシアがレアルとの8ポイント差から逆転優勝したケースがある。

 しかも3月18日のスペインリーグ第28節レアル-マラガ戦(1-1)で、レアルがホームで1-0とリードしていたが、試合終了間際の後半ロスタイム47分にマラガのスペイン代表MFカソルラに直接FKを決められて引き分け、続く3月21日の第29節ビジャレアル-レアル戦(1-1)でもレアルが1-0でリードしていたが、後半38分にビジャレアルの元スペイン代表MFマルコス・セナに直接FKを決められてリーグ2試合連続で引き分けた。その後、モウリーニョ監督は主審への抗議、判定批判が絶えず、チームにかん口令を引くなどナーバスになっており、それに従う選手たちとの間に微妙な感情のズレが出ているのは間違いない。バルサは直接対決となるホームでの“エル・クラシコ”を残しており、さらには24歳の若さでバルサ史上の公式戦の歴代得点王になる等、記録破りのメッシが絶好調なだけに最後まで何が起こるかわからない。とにかく記録・統計は作るためにあり、また新たに破るためにも存在するものだ。

 欧州CL出場権獲得となる3、4位争い、欧州EL出場権獲得となる5、6位争いも試合毎に順位が変動し、バレンシア、マラガ、レバンテ、オサスナ等を筆頭にいまだどのチームにも可能性がある。1部残留争いもボーダーラインとなる43~44ポイントを獲得するまで厳しい戦いが行なわれることだろう。

 今季のバルサは、アビダルだけでなく、FWアフェライ(昨年9月22日の練習で左膝の前部十字じん帯裂傷を負って復帰に約6か月)、FWビジャ(昨年12月15日のトヨタ・クラブW杯準決勝バルサ-アルサッド戦(4-0)で左足脛骨を骨折して復帰に約4~5か月)、DFフォンタス(今年1月12日のスペイン国王杯1/8決勝(5回戦)第2戦オサスナ-バルサ戦(1-2)で右膝前部十字じん帯裂傷を負って復帰に約6か月)を始め、選手ばかりか、ティト・ビラノバ助監督がCL対ACミラン戦前日の昨年11月22日に急きょ、耳下腺の嚢胞摘出の手術を受けるなど、大ケガや病気に見舞われている。そのたびにチームは衝撃を受けたが、団結して苦境を乗り切ってきた。

 現在、アビダルは肝臓移植手術が決まるまで、まるで何事もなかったかのようにチームと一緒に練習を続けている。その姿にグアルディオラ監督は「アビダルは自分の状態を知りながら今まで通り練習に参加し、逆にチームメイトを応援してくれている。彼に代わる選手はいない」と、その精神力の強さに感嘆している。今季にグアルディオラ監督の“ペップ・チーム”のバルサが、ヨハン・クライフ監督の指揮した“ドリーム・チーム”と同じくスペインリーグ4連覇できるか、そして再び6冠達成の快挙がなるかどうかは困難な状況ではあるが “アビダルとともに不可能を可能にするために闘う”これがバルサの合言葉となり、チームにもファンにも最後まで力を与えることだろう。とにかくアビダルの肝臓移植手術が成功することを祈りたい。(小田郁子=バルセロナ通信員)

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