×

【コラム】海外通信員

米女子サッカー界に暗雲 WPSがピンチ

[ 2012年1月6日 06:00 ]

 アメリカのサッカー界は日本と同じく春秋制が採られている。そのため現在はオフシーズンだ。日本の天皇杯のようなカップ戦なども組まれておらず、来春まで完全なオフとなっている。そのため、昨年までのMFデビッド・ベッカム(ロサンゼルス・ギャラクシー)のようにオフシーズンの間だけヨーロッパへレンタル移籍する事も可能なのだ。今回も同チームのアメリカ代表MFランドン・ドノバンが期限付きでイングランド・プレミアリーグのエバートンでプレーしている。

 さて、そんなアメリカ・サッカー界では春に向けた動きが活発になっている。男子プロ1部リーグ、メジャーリーグ・サッカー(MLS)ではプレーオフの方式が変更された。
 MLSではアメリカのプロ・スポーツらしく、レギュラーシーズンだけでチャンピオンが決まらず、その後勝ち抜き形式のプレーオフが開催され、最後にチャンピオン決定戦、MLSカップが行われるようになっている。そのフォーマットに手が加えられたのだ。

 これまでは全18チーム中、東西カンファレンスの上位3チームと、残った12チームの成績上位4チームがプレーオフ進出となっていた。これが来シーズンでは、各カンファレンスの上位5チームが進出、と若干シンプルになった。さらにMLSカップはこれまで事前に決定されていたスタジアムで開催されてきたが、今回は出場2チームのうち、成績が良かったチームのホーム・スタジアムでの開催となった。

 レギュラーシーズンの成績がより反映される形式で、よりわかりやすくなったといえるかもしれない。ただヨーロッパなど世界のサッカーをよく知る多くのファンは、依然プレーオフ自体に違和感を抱いているようだ。

 一方、女子サッカーではまずW杯決勝で最後までなでしこジャパンを苦しめたアメリカ代表Fワビー・ワンバックが通信社APによる2011年女性アスリート・オブ・ジ・イヤーに選ばれた。

 この賞は全競技を対象にしたものだが、ワンバックには全214票中、65票が入った。2位はチームメイトのGKホープ・ソロで38票、2位は大学バスケットボール選手のマヤ・ムーアだった。ワンバックやソロがこれほど認められたのはやはりW杯での活躍があったからだ。高い人気を誇る大学バスケットボールをしのぐほどの印象を人々に与えたのである。実際、この2人の認知度は一般の人の間でも非常に高くなっている。

 そんな2人だが、これまでプレーしてきた女子1部リーグ、ウーマンズ・プロフェッショナル・サッカー(WPS)はピンチを迎えている。

 なでしこリーグとは違い、ワンバックたちの人気にもかかわらずW杯後もWPSは観客数を伸ばすことができず、設立3年目の今シーズンも低空飛行が続くこととなった。しかもワンバック、ソロが所属していたチーム、マジックジャックがオーナーの素行などの問題によりリーグから除名されてしまったのである。オーナーとWPSは現在法廷闘争に入っている。

 さらにこの除名によって今シーズン全6チームだったWPSは来シーズン5チーム体制となってしまった。1部リーグが本来最低8チームで構成されなければならないことになっている。元々足りなかったのに、さらに減るとなるとリーグ自体が2部に降格される可能性が取りざたされることとなった。経営が苦しく、選手の給与も高いとは言えないが、それでも世界のトップリーグとして外国人選手も多いWPSとしてはより経営が苦しくなる可能性の高い2部降格は避けたいのは当然だ。これはUSサッカー協会も同じだったのだろう。結局暫定的に2012年は1部リーグに留まることが発表されている。

 ただWPSの行く末にはまだまだ暗雲が立ちこめている状況であることには変わりがない。世界の女子サッカーのためにもなんとか踏みとどまって欲しいのだが。

 2012年はいろいろな意味でアメリカのサッカーにとってはチャレンジ多い年といえそうだ。(渡辺史敏=ニューヨーク通信員)

続きを表示

バックナンバー

もっと見る