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【コラム】海外通信員

ガスペリーニ解任の裏側

[ 2011年10月5日 06:00 ]

インテルの監督に就任するも公式戦わずか5試合で解任されたガスペリーニ
Photo By AP

 ガスペリーニ監督が更迭され、ラニエリ監督が就任してから、インテルはあっさり勝ち始めた。処方箋は「選手を本来のポジションに戻した」ということ。前監督が提案した3-4-3は放棄され、昨シーズンまでの4-3-1-2に戻され、そしてまだ完調とは行かないまでもチームは2連勝した。左、または右のMFにコンバートされ「積極性がない」と地元メディアから批判された長友も、本来のSBに戻ってからは攻撃参加のタイミングを取り戻した。ご存知の通りCSKAモスクワ戦では見事な股抜きからシュート性の速いボールを供給し、パッツィーニのゴールをお膳立てしている。

 ガスペリーニは無能でした(以上、終わり)――で片付けられても仕方のない展開ではあるが、不憫な面もあった。戦術やフォーメーション、つまり攻撃や守備の約束事を作り替えるには、当然それなりの練習量と時間を必要とする。日本代表のザッケローニ監督が5月のキリンカップで3-4-3をテストして結果が出なかったと伝え聞くが、それ自体はべつにスキャンダラスなことではないのだ。ミラノの地元記者も「ガスペリーニの3バックは選手にあっていない。機能していない」と批判したが、これに対してガスペリーニは語気を強めて反論していた。「3バックだから悪い、のではない。守備の段階で機能していないことがあるのは事実だが、これは時間を掛けて練習して行けば良くなる」と。だが、そんな監督のアイディアを受け入れていく時間は与えられなかった。

 「国際経験豊かな選手たちが監督に従わなかった」ともいわれた。これに対して主将サネッティは「そんなことはない、僕らは本当に監督が解任された事を残念に思っている」と反論し、ベンチに釘付けにされ煮え湯を飲まされたはずのパッツィーニも「彼は彼の判断をした事ということだ」とプロとして受け止めた発言をしている。一方でアンジ・マハチカラに移籍したエトーは「ガスペリーニとはプレシーズンで話をしたが、それぞれが別のサッカー感を持っていた。(移籍した)自分の場合、彼を時間内に理解できたとは言えない」と地元紙のインタビューの中で振り返っていた。ガスペリーニは、頭のまっさらだった若手選手に攻撃サッカーを教え込み、ジェノアで結果を出してきた監督である。すでに選手が豊富な経験を持っているインテルでは、おのずとそのスピードも違うことは明白だった。もちろん状況が違うにもかかわらず、あくまで自らのサッカーを押し通そうとしたガスペリーニにも落ち度はあった。

 「では、なぜインテルはガスペリーニに任せたのか」という話になるが、そこが正直はっきりとしない。ローマもルイス・エンリケ新監督のもとで結果が出ていなかったが、向こうは「どんなことがあっても彼で通す」とフロントが心を決めていた。案の定EL予選も通過できなかったチームをマスコミは大批判し、主将トッティも監督と確執を起こしかけるが、フロントは場を納めてチームを一つにするように務める。監督が希望した戦力もちゃんと与えて、若手選手中心の選手構成にし、チームを再建するという方向性がはっきりしている。一方でインテルには、その覚悟があったとはとても思えない。ガスペリーニの戦術に必要なサイドアタッカーがここには不足していたのだが、「昨年までの4-3-1-2でよろしく」と無言で訴えるかのように移籍市場では動かなかった(金銭的に動けなかったのかもしれないが)。

 そして何より、モラッティ会長の意向だ。ガスペリーニ監督の就任時、「彼のアイディアでチームを再び活性化させて欲しい」と言ったその一方で、「もちろん勝利を求める」とプレッシャーを掛けたのだ。そして結果が出なければ真っ先に心配し、心を痛め、怒り、そして時間を与えるという事を撤回する。「ガスペリーニを続投させていてもチームは普通に機能するようになったのかもしれないが、それを待つのはリスクが高すぎた」と彼は言ったが、そういう覚悟は最初にしておくものではなかったのだろうか。

 昨シーズン途中で解任され、「私には希望した新戦力は誰一人与えられず、約束は破られた」といまだに恨み節をいうベニテスは「モラッティはファン感情で動くからラニエリも気をつけた方がいい」と言ったとか。結果が出なければ周囲はぎくしゃくし、こう状況では監督自らが降り掛かる火の粉を払わなければならない。孤立無援でガスペリーニは潰れたが、経験のあるラニエリがこの難局をどう裁いて行くのか、その行方にも注目だ。(神尾光臣=イタリア通信員)

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