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【コラム】海外通信員

セビージャ会長が起こしたレアル&バルセロナへの反乱

[ 2011年9月21日 06:00 ]

 レアル・マドリードとバルセロナの2強が圧倒的な力を誇示していることにより、そのほかのクラブとの格差を懸念する声が広がっているリーガエスパニョーラだが、この状況に反発する動きが本格的に見られた。セビージャのホセ・マリア・デル・ニド会長が、テレビ放映権料分配方法の改善を求めて2強に反乱を起こしたのだ。

 リーガのテレビ放映権料はほかの欧州リーグとは違い、各クラブが個別にテレビ局と契約する形を取っているために、成績などに応じて増えることがなく、あらかじめ受け取る額が決められている。2強とそのほかのクラブの格差を広げている要因とされるものだ。

 今季であれば、放映権料の総額6億1050万ユーロ(約640億円)の中で、レアルとバルセロナはそれぞれ1億3500万ユーロ(約142億円)を受け取る。その次がバレンシアの4800万ユーロ(約50億3600万円)、アトレティコ・マドリードの4200万ユーロ(約44億700万円)と一気に額が激減。近年好成績を収めているセビージャとビジャレアルでも、それぞれ3100万ユーロ(約32億5000万円)、2800万ユーロ(約29億3000万円)で、最低額はバルセロナとレアルの10分の1以下であるラシンの1300万ユーロ(約14億円7000万円)となっている。リーガの財政状況に詳しいバルセロナ大学の経済学者、ホセ・マリア・ガイ教授は「リーガの放送権料分配方法は平等さのかけらもない。各クラブの財政難の一因であり、競争力の低下を招いている」と説明している。

 昨年10月には2014~15シーズン以降の新たな分配方法が決定されたが、9億ユーロ(約940億円)の収入を見込んだ中での配分は、35%がレアルとバルセロナ、11%がバレンシアとアトレティコ、45%が残りの1部所属クラブ、9%が2部所属クラブ、残り1%が他費用に回されることになった。他リーグのような成績などに応じた分配方法はまたしても採用されず、レアルとバルセロナが放映権料を少し譲渡することにより、全体の収入を増やす形で収まった。

 これに異議を唱えたのが、“残りの1部所属クラブ“に組み込まれたデル・ニド会長だった。常にリーガの上位に位置しているセビージャにとって、どんなに良い成績を収めても、2強とバレンシア、アトレティコを越える額をもらえない分配方法は、許容できるものではなかった。デル・ニド会長は同じように分配方法に不満を持つアスレチック・ビルバオ、エスパニョール、レアル・ソシエダ、ビジャレアル、サラゴサとともに“G6”という反対派を結成し、その先頭に立って改善を要求してきた。

 そして、デル・ニド会長が本格的に動き始めたのは、今年の9月に入ってからだった。バルセロナとレアル抜きのリーガ1部クラブによる会議を、8日に招集したのだ。デル・ニド会長は「強大な権力を持つ2クラブによって、リーガを終わらせるわけにはいかない。この会議に集まるクラブは、スペインサッカーを救うことを義務づけられる。これはフランス革命のようなものだ。フランスでは、国王の支配がどう終わった?」と、リーガに革命をもたらすことを誓った。

 最終的に会議に参加したのは、セビージャ以外では、アスレチック・ビルバオ、アトレティコ、グラナダ、マラガ、オサスナ、ラシン、バレンシア、ベティス、エスパニョール、ビジャレアル、サラゴサの11クラブで、“G6”は“G12”へと名前を変えた。デル・ニド会長はこの会議で、隆盛を極めるプレミアリーグをモデルとした分配方法を提案した。

 その提案とは、スペインプロリーグ機構(LFP)が放映権を管理することを前提とするものだ。国内の放映権料1500万ユーロ(約15億7000万円)、国外の放映権料500万ユーロ(約5億2300万円)を各クラブに均等に分配し、さらにリーガの順位、スペイン国王杯の成績、視聴者数によって分配額を加算。また2部には1億2000万ユーロ(約125億円)を分配し、2部に降格する3クラブにそれぞれ1000万ユーロ(約10億4500万円)を保証するとの内容も含まれている。この分配方法を昨年10月に決定されたものと比べた場合、バルセロナとレアルの収入がそれぞれ1億5000万ユーロ(157億円)から8000万ユーロ(約84億円)に減るのに対して、そのほかの40クラブの収入が増えることになる。

 だが、デル・ニド会長の革命運動は、早くも暗礁に乗り上げた。15日に行われたLFPの臨時総会の場で、レアルのフロレンティーノ・ペレス会長に、その動きを鎮められたのだ。

 この臨時総会はLFPがスペインサッカー選手協会(AFE)と結んだ給与保証の協定について説明する場として設けられたが、“G12”が放映権料についての話を切り出すと注目されていた。しかしペレス会長は、昨年10月に決定された分配方法に合意した33クラブが、それを破棄した場合に厳しいペナルティーが課されると警告。このペレス会長のプレッシャーの前で反対する姿勢を貫いたのは、セビージャのほかにはベティスとエスパニョールのみだった。デル・ニド会長が頼りにしていたバルセロナとレアルに次ぐ権力を持つバレンシアとアトレティコも、2強に背くことはなかった。

 セビージャのホセ・マリア・クルス会長は、臨時総会での出来事を次のように振り返っている。「ほぼすべてのクラブの姿勢が、セビージャに反対するものだった。我々を支持する姿勢を貫いたのは2クラブだけで、ほかは関係ない顔で沈黙を貫いていた。放映権料の話を切り出した際のレアルの反応は脅迫に近いものがあった。いくつかのクラブは、我々の会議に足を運んだことを謝っていたよ。これは敗北とも言える結果だ。平等な分配方法について、発言はともかく聞こうともしないクラブがいるのだからね


 2強抜きの会議の招集から、メディアは連日にわたってデル・ニド会長の2強への反乱を取り上げてきたが、LFPの臨時総会が終了すると、その報道はすっかり影を潜めてしまった。しかし、レアルとバルセロナが大量得点で勝利する度に、放映権料にフォーカスが当たる現状に何ら変わりはない。デル・ニド会長は今後も革命運動を続けていく意思を示しているが、リーガの歴史には、革命家と謀反者のどちらの肩書で刻まれるのだろうか。(江間慎一郎=マドリード通信員)

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