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【コラム】海外通信員

セリエAの移籍市場に異変!

[ 2011年9月17日 06:00 ]

 セリエAの金庫は既に底を着いている。借金はこれ以上作れない。世界中からスタープレーヤーが集結し、世界最高峰リーグと言われた頃が懐かしい。

 今夏、神童の異名を持つサンチェス、セリエA屈指のファンタジスタのパストーレ、怪物エトオの3人がイタリアを離れ海外に移籍した。彼らの移籍金総額は1億ユーロ(約110億円)を超えた。ウディネーゼやパレルモといった地方クラブのみならず、インテルという超ビッグクラブでさえも希代のカンピオーネを引き留めることはできなくなった。“金欠”によりスター選手が求める高額年棒を払えず、逆に鼻先に札束をちらつかされるとクラブのシンボルをあっさりと売り渡す。

 2009年にミランからレアル・マドリードに移籍したブラジル代表MFカカーの移籍に見られたファンの激しい抵抗など今回は微塵もなかった。カタール王室の投資ファンドに買収されたパリSGにパストーレを4200万ユーロ(約46億円)で売ったパレルモのザンパリーニ会長は「売らなきゃパレルモが倒産する」と悲鳴を上げた。

 贅沢は素敵と言わんばかりに湯水のごとくポケットマネーで選手を買い漁ってきたインテルのモラッティ会長も今年は算盤を弾いていた。2014年まで契約を残していたエトオの年棒と税金、そして移籍金を合わせると総額9900万ユーロ(約100億円)の節約に成功。ほぼ倍増の年棒2000万ユーロ(約22億円)のサッカー選手最高年棒でロシアのアンジ・マハチカラへエトオが移籍したことは至極当然のことだった。

 まもなく導入されるUEFAのファイナンシャル・フェアプレー規則(各クラブは収入以上の支出をしないことが義務付けられる)。クラブ、選手、ファン、誰もがこれから本格的なローコスト経営が始まろうとしていることを自覚しているのだ。

 彼らに代わる新たなタレントの出現は難しく、リーグの弱体化は避けられない。イタリアの経済危機は深刻さを増し、不吉な黒い雲はサッカー界にも立ち込めてきた。地方自治体の所有物となっているイタリアの老朽化したスタジアムを再建し、私有化することが最優先事項だろう。そして、プレミアリーグとリーガ・エスパニョーラの半分にも満たないユニホームやグッズ類等のマーチャンダイジングでの売り上げを伸ばし、収入を増やさなければイタリア復権の道はない。

 華やかさと活気が失われ、儚い真夏の夢となった今回の移籍市場。イタリア紙ガゼッタ・デッロ・スポルトは9月1日、各チームのメルカート採点評を掲載した。先ず、目についたのが高額移籍金獲得選手トップ5の金額の低さ。ブチニッチ(ローマ→ユベントス)、オスバルド(エスパニョール→ローマ)、ラメラ(リーベル・プレート)、インラー(ウディネーゼ→ナポリ)の4人が並んで移籍金1500万ユーロ、そしてアルバレス(ベレス→インテル)の1150万ユーロ。金に糸目をつけず豪華な買い物が出来た時代はもう終わった。

 20チーム中、戦力補強で7・5の最高評価を受けたのはナポリとACミラン。マラドーナ以来の21年ぶりにチャンピオンズリーグに参戦する今季のナポリは弱点の中盤を軸に新規加入選手10人でリーグ3位の総額4215万ユーロの積極投資。

 一方、同じく高評価を受けたミランだが補強戦略は対照的だ。わずか500万ユーロの投資で代表選手5人を獲得する離れ業をやってのけた。18歳のイタリアU-21代表のエル・シャーラウイに400万ユーロ、メルカート土壇場でイタリア代表MFノチェリーノをパレルモからたったの100万ユーロで獲得。フランス代表DFメクセスとナイジェリア代表DFタイウォは契約切れに伴い早々と移籍金なしで獲得。さらに、イタリア代表MFアクイラーニはリバプールから買い取りオプション付きのレンタル移籍。公式戦で25試合以上に出場した場合、移籍金600万ユーロで買い取りが義務となる後払い。妙技だが、実に効果的だ。アメリカ人新オーナーを迎えたローマと欧州カップ戦出場を逃がし背水の陣で今季に臨むユベントス、そしてナポリを加えた3チーム以外は、どのチームも収支バランスに気を配っている。

 今季のタイトル争い予想は昨季スクデットを獲得したミランが圧倒的に有利だが、移籍市場でチームの顔を失った昨季2位インテル、4位ウディネーゼ、8位パレルモの今季のチーム作りと成績も気になる。
(下妻 宏=イタリア通信員)

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