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【コラム】海外通信員

高木善朗の1カ月

[ 2011年7月27日 06:00 ]

ユトレヒトの本拠地で入団会見を行った高木善朗
Photo By スポニチ

 6月26日に高木善朗が、オランダ、FCユトレヒトに加入してちょうど1カ月が経過した。

 入団会見で口にしていた今年の目標は、「ファーストチームに入って、試合に出て、得点を取ること」。目標とする選手を聞かれ、「オランダでは、スナイデル選手とか、代表的な選手で。イニエスタみたいな選手になりたいです」と具体名を挙げていた。「すごい高い目標なんですけど、もっとゴールを取れる選手に。ゴールも取れるし、取らすこともできる選手になりたいです」。希望するポジションはトップ下。とはいえ、サイドで使われたとしても、「大丈夫です。ずっとやってきたことなので。それは変わらずに、自分の特徴をどこのポジションでも出せればいいと思います」。そんな風に語っていた。

 あれから1カ月、高木は日々の練習と練習試合を重ねながら、徐々にチームに慣れてきている。とはいえ、慣れなければいけないのは、高木だけではない。FCユトレヒト自体が、新しい体制の下で、新しいチームを作り上げている最中なのだ。

 今季から、エルウィン・クーマンが新監督に就任した。また、昨季までチームの中核を担っていた選手が数人、チームを離れた。センターフォワードのファン・ボルフスビンケル(スポルティング・リスボン)、ベルギー代表MFドリース・メルテンス(PSV)、オランダ代表MFケビン・ストロートマン(PSV)。まさに攻撃の中心だった彼らの他にも、右サイドバックのティム・コルネリセ(トゥエンテ)、デンマーク代表MFミカエル・シベルバウアー(ヤング・ボーイズ)といった、ハードワークができる中堅の選手も移籍している。さらには、27歳となったGKミカエル・フォルムも、そろそろステップアップしたいという意志を表明しており、オランダ代表のセカンドキーパーである彼もまた移籍する可能性が残されている。スタメンでプレーしていた彼らがチームを離れたことで、クーマン新監督は、開幕までに新しいチームをなんとか作り上げなければならない状況にあるのだ。

 地元のアマチュア選抜チーム、川島永嗣が所属するベルギー1部のリールセ、ギリシャ1部のエルゴテリスといった対戦相手と練習試合を繰り広げながら、徐々にチームが形になってきている。とはいえ、まだ模索している段階を出てはいない。

 オランダ人であるエルウィン・クーマンが採用する、ベースとなるフォーメーションはダブルボランチの4-3-3。このうち、ポジションが固まっていると言えそうなのは、センターバックの二人とボランチの一人くらいか。センターバックには、スフット、ワイテンスという昨年もコンビを組んでいたふたり、ボランチの一人には、レンスキーが入る。その他のポジションは、いまだ確定したとは言いがたい状況だ。

 そんなチーム状態の中で、高木はといえば、むしろ上記3人に続いてスタメンに近いメンバーとして構想に入っているように見受けられる。4-3-3で試合に入った地元アマチュア選抜戦、リールセ戦ではトップ下で、4-4-2でプレーしたエルゴテリス戦では左MFとしてそれぞれスタメン出場した。

 チームからは”シャーキー”という愛称を頂戴した高木。「監督から、『ヨシアキは長いから、”シャーキー”でいいか』って言ってたんで。個人的にも問題ないです(笑)」。英語でいう”チャーリー”のオランダ語的な綴り及び呼び方である”シャーキー”という愛称は、すっかり定着している。練習試合をスタンドで観戦していると、しきりと周囲から”シャーキー、シャーキー”と言っているのが耳に入ってくる。18歳とまだ若く、小柄で、さらに”シャーキー”という親しみ易い愛称もあって、サポーターからは非常に温かい目線で見守られているような、マスコット的な感じで可愛がられつつあるような印象を受ける。そんな高木が、中盤からボールを持って1人、2人と交わしながらドリブル突破するなど、好プレーを見せると、スタンドからはヤンヤヤンヤの喝采が沸き起こる。

 とはいえ、完全にスタメンを確保したかと言われれば、そう簡単でもないだろう。上記の通り、チームはまだ模索段階なのだ。特に前線の組み合わせは、まだ回答を得たとは言いがたい。

 エルゴテリス戦では、4-4-2を採用したが、そのあたりにも、監督の試行錯誤が見て取れる。センターフォワードタイプには、長身でポストタイプのデムーシュ、屈強な身体能力を誇るムレンガ、新加入のスウェーデン人グラントがいる。エルゴテリス戦では、デムーシュとムレンガの2トップで試合に入ったが、この試合のように3人のうち2人を2トップとして並べるのか、一人をトップに入れ、ムレンガをウイングの位置で使うのか、このあたりもまだハッキリしない。

 一方で、フォワードや中盤の顔ぶれを見ても、典型的なウインガータイプは少なく、縦への突破とクロスを武器としているのは、左ウイングに入る10番のオアルくらいだろうか。その他の中盤の選手では、昨シーズンは右ウイングに入っていたテクニシャンのデュプランがいる。そして、中盤から前線へ掛けてのキーマンになるのが、柔軟なテクニックとスピード、アジリティに優れた15番のアザーレ。このアザーレをセントラルMFとしてボランチの位置に入れるのか、一列上げてトップ下に入れるのか、このあたりも試行錯誤している状況だ。彼らデュプランとアザーレの起用のされ方や2トップなのか、1トップなのか、といったあたりが、今後の高木のポジションや起用に影響を与えることになる。

 一方で、高木を中心とした目線で見ると、2人の選手に注目だろうか。ボランチで徐々にスタメンに近づきつつある6番マルテンソンは高木と仲もよく、展開力もありそうなタイプ。また左サイドバックのズロも、まだスタメン奪取には至っていないが、小柄ながらパスを繋ぐのが得意なタイプで、サイドからパス交換しながら攻め上がるには高木と相性が良さそうなタイプと言えるだろう。

 「(試合中は)ポジショニングのことを(周りの選手に)言われた。守備の時も攻撃の時も、ポジショニング。攻撃の時はもっと縦にボールを入れるようなプレーをしたいし、縦に入った時は、もっと受けられるようにしたい。ディフェンスの時は、日本の時より、もうちょっと下がってこいって言われるんで。ユトレヒト自体、ポゼッションを上げて、グラウンドを広く使って、というのがあると思います。個人的には、広く使って、サイドとどう絡んでいくとか、どこのポジションでいたらいいのかとか、自分の中でハッキリさせていきたい。そういうところは、チームメイトと言葉を交わしながら、試合で慣れていくしかない」。

 リールセ戦の後、そんな風に語っていた高木。チーム自体がチーム作りの段階で、高木も完全にフィットしているとは言いがたい。ちょっとしたクサビのショートパスなどが、意図の違いからズレることもある。だが、一方で、7月24日のエルゴテリス戦にもなると、いいポジショニングを取りながらパスを出さなかったチームメイトには、身振りを交えながら言葉を掛けている、というか文句を言っているような姿が見られた。自分の要求を、試合中にも声を出してチームメイトに要求できるようになってきている。また、この試合では、左右のCK、直接FKを含めた全てのセットプレーのキッカーも務めていた。チームの状況はまだまだこれからとはいえ、高木は開幕スタメンへ、非常に近い位置にいるのは間違いなさそうだ。

 ちなみに、FCユトレヒトの開幕戦は8月6日、VVVとのアウェーゲームだ。日本人にとってはどういう結果になろうとも興味深いカードだが、ユトレヒトにとっては非常に重要な試合になる。ユトレヒトの第2節はホームで迎えるデ・フラーフスハップ戦なのだが、主力が抜けて新体制となったユトレヒトにしてみれば、スタートでつまづくと、泥沼にハマることになりかねない。格下と見られる相手との連戦となる開幕からの2試合でなんとしても勝利が欲しいところだ。

 いよいよ開幕が近づいてきた高木だが、現在はまだ18歳。同級生には、宮市亮、宇佐美貴史がいる。1992年生まれの、いわゆるプラチナ世代だ。その世代は、まだ18、19歳にもかかわらず、2列目に、右からバイエルン、ユトレヒト、アーセナルの選手が並ぶことになる。仲がよく、同時にお互いを意識しながら切磋琢磨しているわけだが、競っているステージのなんと高いことか。すごい時代になったものだ。(堀秀年=ロッテルダム通信員)

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