×

【コラム】海外通信員

バルサに黄金期再来!

[ 2011年6月18日 06:00 ]

欧州CL優勝し、優勝カップを掲げるアビダル
Photo By AP

 階段は39段だったが、新ウェンブリー・スタジアムでは107段と増している。その差68段以上に、5月28日の欧州チャンピオンズリーグ(CL)決勝では、バルサが圧倒的にボールを支配し、華麗なパスワークでマンチェスターUを翻弄して3-1で破り、2年ぶり4度目の優勝を果たした。バルサファンが陣取ったゴール裏で、バルサのチームカラーの青深紅とカタルーニャ州旗の黄色と赤を主体にして『WE LOVE FOOTBALL』のモザイク人文字を作って選手たちをフィールドに迎え入れたように、バルサは欧州CL決勝史上に残る素晴らしいパフォーマンスでバルサが確立した攻撃的なプレースタイルを披露して世界中のサッカーファンを魅了した。

 今季のバルサは、スペイン国王杯こそ決勝でレアル・マドリーに敗れたものの、スペインスーパー杯、スペインリーグ3連覇、そして欧州CLに優勝して3冠を飾った。そしてペップ・グラルディオラ監督はバルサに就任したこの3年間で、1年目の6冠達成の偉業を始め、欧州CLで2度目の優勝を果たして通算10タイトルを獲得したばかりか、恩師ヨハン・クライフ監督とともに、選手と監督の両方でサッカーの聖地ウェンブリー・スタジアムで優勝する名誉を得た。グアルディオラ監督が指揮するチームは、いつしか彼の名前を取って"ペップ・チーム"と呼ばれ、ヨハン・クライフ監督の指揮で1990年代に"ドリーム・チーム"と呼ばれて一世風靡したチームと比較され、バルサに黄金期再来をもたらしている。

 19年前の1992年5月20日に旧ウェンブリー・スタジアムで行われた欧州チャンピオンズ杯決勝(欧州CLの前身)でバルサが初優勝した対サンプドリア戦の直前に、ヨハン・クライフ監督が「諸君、フィールドに出て楽しんでくれ!」と選手達を激励した有名な言葉が残っている。グアルディオラ監督は当時21歳の若手選手だったが、今回は監督として新ウェンブリー・スタジアムで臨んだ欧州CL決勝前に「君たちが誰の期待を裏切らないことは私にはわかっている。君たちはこの試合に勝つ、なぜならこのタイトルは君たちのものだからだ」と選手たちを鼓舞してフィールドに送り出したそうだ。この2人の監督の言葉の裏に秘められていたのは、選手たちを信頼し、常に自分たちのプレースタイルを貫いて戦えば勝てるという信念だった。

 『現在の"ペップ・・チーム"は、ヨハン・クライフ監督時代の"ドリーム・チーム"を超えたか?』が議論される今日だが、ヨハン・クライフ監督を始め、ドリーム・チーム時代の主力だったクーマン、ラウドルップ等が口を揃えて「現在のバルサはドリーム・チームより更に良いチームだ。」と太鼓判を押しているにも拘らず、グアルディオラ監督自身は「ドリーム・チームを再びつくるのは不可能だ。なぜならチャンピオンズ杯にバルサ史上で初優勝し、スペインリーグ4連覇を果たした先駆者であるドリーム・チームの存在を超えることはできない」ときっぱり否定している。それは彼自身がドリーム・チーム時代に生まれたバルサのサッカー哲学"ボールを大切に扱い、テクニックを重視し、スペクタクルなサッカーを行って勝つ"を基本に現在のチームを作っているからだろう。

 実はバルサの練習の基本は、ヨハン・クライフ監督の"ドリーム・チーム"時代からグアルディオラ監督の"ペップ・チーム"に至る今日まであまり変わっていない。バルサの練習は"ロンド"と呼ばれる円陣になってワンタッチでパスを回し、その中に入った2人がボールを奪いに行く、いわゆる多対2(9対2)の円陣パスでいつも始まる。GKを含めた選手たちは大声を出しながら楽しそうにプレーしているように見えるが、ワンタッチでパスを20回繋ぐルールは、常に周囲を見ながら素早くパスを出す判断力とテクニックが要求される。また、中に入った2人は1人でボールを奪に行くこともできるが、2人で協力してボールを持った相手を追い込み、ミスを引き出すことが要求され、実際は、息つく間もなくとてもきつい練習だ。
その次はフィールドを1/4位に縮小したスペースでGKをつけた7対8(うち一人はフリーマン)のミニゲームを行うのが常だ。最高ツータッチのルールで3分間のミニゲームを6~8本ほど続けて行うのだが、狭いスペースで早いテンポのプレーを要求されるこのミニゲームは一瞬たりとも集中力を欠くことが許されず、正に実戦さながらのように激しいものだ。

 バルサのカンテラ(=原石を磨いて優れた人材を輩出する場所=生え抜き)出身のシャビが、「11歳でバルサの下部チームに入った時から、バルサのサッカー哲学を学び、特にワンタッチでボールコントロールすることをいつも意識して練習してきた」とコメントしているように、トップチームだけでなく下部チームの選手たちにまでバルサのサッカー哲学が浸透。才能のある選手であればあるほど、ふるいをかけられながらカテゴリーを登って成長していく段階でそのテクニックが磨かれる。そして今季のバルサのトップチーム登録21人の中、バルサの生え抜き出身11人(GKビクトル・バルデス、DFプジョル、ピケ、フォンタス、MFシャビ、イニエスタ、セルヒオ・ブスケツ、FWメッシ、ボジャン、ペドロ、ジェフレン)が過半数を占めていたことでもわかるように、トップチームでプレーする道が開かれているのもバルサの強みだ。

 最近、世界中のクラブチームがバルサのプレースタイルに感嘆し、それを目指そうとしているが、これは1~2年でできるものではない。"石の上にも3年"の諺のように根気強く毎日の練習で身につけていかなければできないものだ。しかし一度身につけたら、その先には栄光が待っているのも事実だ。バルサの成功だけに留まらず、スペイン代表の成功がその良い例だろう。ルイス・アラゴネス監督の指揮によりユーロ2008オーストリア・スイス大会で44年ぶりに優勝を果たし、さらにビセンテ・デル・ボスケ監督の指揮により2010W杯南アフリカ大会で悲願の初優勝を飾ったスペイン代表の中心はいずれもバルサの選手たちだった。スペイン代表のプレースタイルはバルサ同様にボールを支配して速いパスワークからスペースを突くもので、練習の基本も"ロンド"と呼ばれるワンタッチの円陣と狭いスペースでのミニゲームを重視している。現在もバルサの選手たちを中心としたスペイン代表は、来年のユーロ2012ポーランド・ウクライナ大会で2連覇を目指し、これまでユーロ予選に全勝中で強さを維持している。

 順風満帆に思えるバルサだがうかうかしてはいられない。来季は今季以上にレアル・マドリーを筆頭にスペイン内外で打倒バルサを目指してライバルたちが戦いを挑んでくるからだ。しかし、何よりも頼もしいのはグアルディオラ監督も選手たちも決して現状に満足していないことだ。メッシが「僕は世界最高の選手だとは思っていない。バルサのチームの一員に過ぎない。僕はグアルディオラ監督から多くのことを学んで成長したが、もっと良くなりたい。バルサの成功の鍵はまだまだ我々は勝利、タイトルに飢えていることだ。」と謙虚さと意欲を強調すれば、ピケは「ドリーム・チームのようにスペインリーグ4連覇を果たし、CLになってからどのクラブも成し遂げていないCL2連覇を果たしたい」と来季の目標を掲げたように、依然としてタイトル獲得に貪欲だ。

 来季のバルサは8月14、17日のスペインスーパー杯で"エル・クラシコ"となる対レアル・マドリー戦を皮切りに、8月20、21日からスペインリーグ、8月26日にモナコで行われ欧州スーパー杯対ポルト戦、そして9月からのCL本戦、12月からスペイン国王杯、さらに今年は日本で行われる予定のトヨタ・クラブW杯に出場して再びタイトル獲得に挑戦する。
バルサに限らず、常に栄光への道のりは長く厳しいもので、努力と忍耐力、そして何よりも意欲がなければ勝ち取ることはできない。現在の"ペップ・チーム"が"ドリーム・チーム"を本当に超えることができるかどうかは今後のバルサの活躍にかかっているだけに、今から来季が楽しみだ。(小田郁子=バルセロナ通信員)

続きを表示

バックナンバー

もっと見る