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【コラム】海外通信員

“最新”カターニア

[ 2011年5月23日 06:00 ]

カターニアの練習場
Photo By スポニチ

 「いやー、ひどいねー。まるでJ2だねー」。日本から記者やテレビクルーの方がカターニアの旧練習場マッサヌンツィアータを訪れるたび、そう苦笑していたことが思い出される。確かにその通りだった。平屋建ての小さいクラブハウスにトラック付きのグラウンドが一面だけ。その芝の状態もまた酷く、雨が降った後にクラブは近くの人工芝のグラウンドを借りて練習する程だった。実態はマスカルチア市から借り受けただけのもの。「買い上げて補修すればいいのに」と思っていたら、彼らはとんでもないものを新たに建設していた。

 その名も「カターニア・トッレ・ディ・グリフォビレッジ」。エトナ山の麓にあるマスカルチア市のトッレ・ディ・グリフォ地区にできたから、名前はそのまんまだ。それはいいとして、びっくりするのはその内容。敷地面積は約13ヘクタール(阪神甲子園球場のおよそ10倍)におよび、これはイタリア最大。グラウンドは全部で4面を抱え、うち2面は人工芝、ファン見学用に3~4000人が収容出来るスタンドも備えられている。

 ロッカールームはトップチームから下部組織用のものを含めて9つあり、もちろん室内トレーニング用のジムも用具も完備。治療からリハビリ施設まで備えたメディカルセンター、トップチーム用の前泊施設、就学室を備えた下部組織用の合宿所など、チームの運営は全て敷地内で完結できる規模だ。

 それだけではない。クラブオフィスも敷地内の建物に移動し、そこには見事なカンファレンスルームも備えられている。さらに、それとは別に「多目的施設」なる建物もあり、施設内のジムやプールにウェルネスセンター、供食施設やオフィシャルショップは一般開放される。つまり練習の見学に訪れたファンがここでお金を落とし、収益が出るようなシステムが組まれているのだ。イングランドやドイツにあるような、レストランやショッピングセンターなどを抱えた新しいスタジアムと、考え方は一緒である。

 総工費用は6000万ユーロ。6シーズン連続のA残留で得た収益、バルガス(現フィオレンティーナ)やマルティネス(現ユベントス)などの選手を転売して得た収入、そして移籍金の安いアルゼンチン人を多く抱えることで浮いた人件費分を宛て、借金抜きで建てた。

 「クラブの質を高めるため、最高のものを用意した。我々はイブラヒモビッチを4人獲得したも同然だ」とロモナコGMはぶちあげている。ハコものを揃えただけでそこまで強くなってたまるものかとツッコミを入れたくもなるが、長期的な視野で見れば彼の言う通りだ。

 トップチームからユース、ジュニアユースの下部組織まで一緒に強化できるような環境は、なにより下部組織の選手たちを強くする。彼らの練習の様子を見ると、システムはトップチームと同じ4-3-3(あるいは4-5-1)。戦術を統一することは優秀な育成部門を誇るあのアヤックスやバルセロナの方法論と同じであり、かなり本気で取り組んでいることがここからも分かる。良い選手が育てば、彼らもまた”収入源”となる。目先の結果にこだわらず、中長期的にクラブ経営が成り立つための投資を行ったことは評価に値する。

 施設は今年の1月から使用しており、オフィスも3月に移転済みだが、オープンセレモニーは今月の18日に行われた。政治家や他クラブの幹部も招待され、ローマのロセッラ・センシ会長は「内緒でこんな凄いものを作っていたとは。イタリアの他のクラブも見本とすべき施設」とコメントを残している。

 老朽化したスタジアムを始め、施設の不備と収益が生み出しづらいシステムは、最近CLで振るわなくなってきているイタリア勢の泣きどころだと考えられている。この国のサッカーの巻き返しのモデルケースは、実はこのトッレ・ディ・グリフォにあるのかも知れない。…それはさておきロモナコGM、森本のことはどうするおつもりですか?(神尾光臣=カターニア通信員)

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