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【コラム】海外通信員

プレーオフ サッカーキャリアをかけて

[ 2011年5月7日 06:00 ]

フェイエノールトを破り、サポーターにあいさつするVVVフェンロの吉田麻也(左)とカレン・ロバート
Photo By 共同

 VVVの残留プレーオフ出場が決定した。

 5月1日、VVVはホームでフェイエノールトと対戦し、3-2で勝利した。2度リードしながらも追いつかれたが、後半32分にFWウチェボが決勝ゴールを決めて、2月25日のエクセルシオール戦以来の勝利を手にした。この日の勝利で17位が確定。直接降格は回避し、1部からは16位、17位が参加する残留プレーオフへ出場することになった。

 「2時半からの試合で、暑かった。前半は全般的に体が重かった。だから、なんとか前半は踏ん張って、後半は体も盛り返してくると思っていた。前節の反省を踏まえて戦えた。前半も後半も前節の反省が活きた試合だったと思います。もちろん、課題はたくさんありますけど、この勝ち点3はプレーオフに向けてすごく大きな勝ち点3であり、1勝だと思います」

 前節、4月23日のヘーレンフェーン戦で、VVVは2度リードしながら追いつかれて2-2の引き分け、という試合を演じていた。「出来れば勝てばもっと勢いがついたと思いますけど、ちょっと前に進めたと思います」と語っていた吉田だったが、1週間後には待望の勝利を得ることに成功した。

 フェイエノールト戦で、VVVは今季6勝目。戦績は、33試合6勝3分24敗で勝ち点21。34得点75失点が現在の数字だ。ちなみに最下位のビレム2は、3勝6分け24敗、37得点97失点。VVVの特徴は、得点数がリーグで下から2番目の17位、失点数もリーグで2番目に多い。3試合という引き分け数は、リーグで最も少ない。つまり、我慢強く守っていても、前線はなかなかゴールを奪ってくれない。いい試合を演じたと思っても、チームに堪え性がなく、引き分けに持ち込むこともできない。DFにしてみれば、なかなか徒労感の多いチームだということが数字からも伺える。そんなチームでディフェンス・リーダーとして守備を統率する吉田に掛かるメンタル面での負荷は相当なもの。なにしろ、彼はまだ22歳なのだ。

 「チームが険悪な雰囲気になったこともありました。でも、僕としては何よりも勝つことが一番の薬だと思っていたので。いろんなことに惑わされず、しっかり勝つため、ということだけを考えてやっていました。周りがガヤガヤしていても、集中することはできました」

 試合に集中する吉田がカバーしないといけない範囲は広大だ。例えば、前節のヘーレンフェーン戦の後、吉田は自分のカバーエリアについて、こんなふうに語っていた。

 「今日はウチの左サイド、相手のアタッカーの裏をカバーしてくれと言われていた。一方の逆サイド、相手が右サイドのティミセラ(VVVの右サイドバック)側でボールを持っている時は、マンマークとカバーの両方をやれと言われていた。しんどかったけど、しょうがないですね。裏は全部カバーしろと。右サイドはフェリー(デ・レヒト、VVVの右センターバック)がティミセラの裏のカバーだけに集中していたんで、クサビは全部僕が行かないといけなかった」。

 フェイエノールト戦の後にも、同じようなことを言っている。

 「前半はちょっと、守備の面ではフェリー(デ・レヒト)が外に寄りすぎて、必然的に僕がクサビをカバーしないといけなかった。それを外されて何回かチャンスを作られましたけど、後半はそこは修正できました。」

 守備の役割分担を考えると、一般的にはストッパー的な選手が相手のセンターフォワードをマンマークして、クサビが入ると潰しに行く。そして、スイーパー的な役割の選手が裏をカバーするものだ。しかし、VVVでの吉田は、マンマークしながらクサビに入ったところを潰しに行き、しかも裏をカバーするという、相反する仕事を一人でこなさなければいけなない状況にある。しかも、中央をケアし、センターフォワードのマークを任されながら、左サイドバックの裏に抜けてくる相手のアタッカーもカバーしろと言われているわけだ。

 フェイエノールト戦の後半、吉田は修正できたと言っていた。状況に合わせて左サイドバックのエル・アクチャウイに適切に中に絞るように指示したこと。相手のセンターフォワードのカスタイフノスがあまりクサビに入ろうとせず、裏を狙うことを好んだこと。さらにこの日からボランチに入っていたクライセンがアンカー的にバックラインの近くでプレーし、必要に応じてバックラインに入るなど、吉田と近い位置でプレーしていたことなどもあって、守備は多少修正されてた。

 「難しいことを要求しているんですけど、自分にとって成長できるのは、そういうところ。守備範囲を広げるだったり、相手と味方をどれだけカバーするのか、というのは、フェンロにいる間にどんどんやっていこうと思っている。それが出来れば、もっと上に行けるかなと、個人的には思っています」

 ヘーレンフェーン戦の後に、そんなことを語っていた。組織的とは言いがたく、相反する仕事を両立させなければいけない状況にある吉田は、いかに整合性を取るのか、考えつづけなければならない。ディフェンスリーダーとして、周囲を動かすとか、クサビへのチェックに行く振りしつつ、裏のカバーをするなどなど。これが日本代表であれば、遠藤や長谷部、本田や川島などと話をすれば、ひとつの回答が与えられる。しかし、VVVでは、守備とビルドアップに関しては、22歳の吉田が全ての回答を導きださなければならない。そんな試行錯誤の果てに、フェイエノールト戦の勝利があった。

 「こういう戦いをやれば、フェンロでも成長できると思うし、こういう相手とやって自分の足りないところを磨いていかないといけない。もっともっと力強い守備をできるようにならないといけない。あれくらいの相手にファールでしか止められないようでは、話にならない」

 17位が確定したことで、VVVは入れ替え戦に出場する。

 「もっともっと勢いが欲しい。2部のチームは相当な勢いで来ると思う。体験したことはないですけど、普通に考えて、ノリに乗っていると思う。だから、勢いを付けたい。リーグ戦が終われば、すぐにプレーオフが始まるので次も勝って試合に臨みたい。僕らが受身になると、向こうは勢いがあるので、後手を踏んでしまうと思う。今日みたいに、僕達のリズムでサッカーができると、必ず結果は付いてくる。みんなで踏ん張らないといけない時間帯も出てくると思うけど、プレーオフは短期間なので、内容どうこうよりメンタル的な部分がすごく左右すると思う。しっかり根性を、気合を入れてやっていかないといけない。(2部に)落ちると僕のサッカーキャリアにも関わってくるんで、意地でも頑張ります」(堀秀年=ロッテルダム通信員)

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