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【コラム】海外通信員

よみがえるナポリの黄金時代

[ 2011年2月17日 06:00 ]

ナポリ躍進の原動力となっているFWカバーニ
Photo By AP

 ディエゴ・マラドーナが君臨し、世界中に名を轟かせた頃の強いナポリが戻ってきた。

 21年ぶり3回目の優勝のカギを握るのは、智将マッザーリ監督と今季新加入したFWカバーニの2人だ。セリエA第22節のサンプドリア戦で4-0と快勝したナポリは、首位ミランとの勝ち点差4を保った。

 第19節のユベントスに続き、ナポリの“新しい英雄”がリーグ戦2度目のハットトリック。17ゴールでトップに立ち、得点ランキングではディ・ナターレ(ウディネーゼ)に2ゴール差を付け、ELを含めて今季通算24ゴール目を達成。ズバ抜けた得点感覚で熱狂的なナポリファンをすっかりとりこにし、「チームはリミットを設けてはいけない」とスクデット宣言とも取れる野望を口にした。

 マタドールの異名を持つカバーニだが、人見知りで信仰深いプロテスタントとしても知られている。「キリストのアスリート」に所属し、いわゆるカカー(レアル・マドリード)のような優等生タイプだ。彼のレジェンドは“ナポリの英雄マラドーナ”ではなく、唯一の存在であるイエス・キリストなのだ。

 昨年の年内最終試合、12月19日のホーム・レッチェ戦では、ホーム2試合連続となる劇的なロスタイム弾でチームに勝利をもたらした。敬けんなクリスチャンは「これはナポリファンへのクリスマスプレゼント」と狂喜乱舞するティフォージ達を2度も天国へと導いた。

 デ・ラウレンティス会長は「イブラヒモヴィッチ(ミラン)より上だね。それに何たって(イブラより)若い!」と強面の顔の筋肉が緩みっぱなし。今後10年、ナポリのFWは安泰だと言わんばかりだ。

 チームは公式戦23戦(EL含む)でロスタイムの得点が6試合。うち4試合が決勝弾、1試合が同点弾だ。そして、マタドールが26%と高いロスタイム弾率の4発を叩き出している。指揮官は終盤に得点が多い傾向について「マッザーリ・ゾーンではなく、ナポリ・ゾーンと言ってくれ。最後まで勝利を信じて止まない選手たちに感謝したい。片足が棺桶に入った状態から何度も奇跡を起こすのは偶然じゃない。我々にはハートがある」と強心臓ぶりを強調。ナポリはついに喉から手が出るほど欲しかった一級品のストライカーを手に入れた。

 このチームにやってくるFWはみな、ディエゴ・マラドーナと比較される運命にある。そして、その重圧に耐え切れず、セリエA復帰後も数多くの選手が消え去っていた。唯一、生き残ったFWは黄金トリオの一角をなすアルゼンチン人のラベッシのみ。それに、昨季12得点のチーム内得点王MFハムシクを加えた前線の3人が、現在セリエAで最強の破壊力を誇るナポリの黄金トリオだ。

 しかも、ナポリには何よりも頼もしい“親分”マッザーリ監督がいる。彼は監督として、FW陣に多くのゴールを決めさせてきた。これまで若手FWビアンキ(レッジーナ)から峠を越しリサイクル選手とみなされたルカレッリ(リボルノ)、プロッティ(リボルノ)まで。さらには故障と戦っていたベッルッチ(サンプドリア)でも問題児カッサーノ(サンプドリア)であっても構わなかった。

 FWを預ければ正真正銘のボンバーへ、トップ下やサイドの攻撃的選手なら得点能力の高いプレーヤーと変身させてしまう。ビアンキの1試合平均0.1ゴールが0.5と5倍になったのを筆頭に、パッツィーニは0.2→0.6、ルカレッリは0.3→0.7、プロッティとアモルーゾは0.3→0.5など、全ての選手が例外なく大幅にゴール数を伸ばしている。

 マッザーリ監督はパレルモで昨季13ゴールを挙げたカバーニをさらに正確無比なスナイパーに育て上げることができると確信していたに違いない。選手の特質を考えてシステムを決め、コンセプトを浸透させる。ナポリでは、堅守からのカウンターアタックを基本にしている。ローマでスペクタルなサッカーを完成させたスパレッティ監督は「バルセロナは世界で最も美しいサッカーをするチーム。だが、ナポリはバルセロナに並ぶことができる」とナポリのサッカーに太鼓判を押す。

 だが、“ゴールの法則”を熟知する智将マッザーリを持ってしても、まだスクデット獲得には不十分だ。現在のナポリには“二足のわらじ”を履けるほどの選手層がない。他の優勝を狙うチームが疲れた選手を休ませながら戦えるのに対し、ナポリは不動の11人で試合に臨まないとこの地位を保てない。前線の黄金3人の1人でも、ケガや出場停止で欠くと極端に戦力は落ちる。ハムシク不在の試合が3分け6敗の勝ち星ゼロという数字がそれを如実に語っている。

 ビッグネームばかりをかき集める首位ミランのチーム最高給取りはイブラの年棒900万ユーロ。それに対して将来性のある若手を獲得しているナポリはカバーニの170万ユーロがトップ。選手年棒総額ではナポリの8倍弱の“超エリート集団”のミランとは雲泥の差だ。

 マラドーナを擁するナポリとファンバステンを擁するミランがスクデットを賭けて死闘を演じたのは80年代後半。壮絶なスクデット争いが今、よみがえろうとしている。ミラン対ナポリの頂上対決は2月末。チンクエチェント(フィアットの小型車)はフェラーリを制覇できるか。(下妻 宏=イタリア通信員)

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