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【コラム】海外通信員

イギリス育成機関で注目される相対的年齢効果とは?

[ 2018年2月7日 19:00 ]

 英国のプレミアリーグのアカデミーへのスカウティングは7歳前後からはじまっている。ロンドン市内で行われるリーグ戦や大会などに各クラブのスカウティング網が張り巡らされ、いい選手が見つかった場合には街クラブのコーチや保護者に練習参加の声がかけられている。

 筆者が指導している街クラブにはWBAでプレーしているロブソン・カヌーという選手の弟が所属しており、その才能は誰の目にも明らかである。弱冠6歳であるが、ロンドン市内のクラブから多くの勧誘がある。

 数週間のトライアルを経て晴れてアカデミーの一員となると9歳からは所属クラブとの契約がなされ、私立学校の授業料負担や両親の新居など提供するクラブも存在する。タレントに溢れる選手を他クラブより早く獲得できるかという競争の激しさは止まる気配はない。

 イギリス国内のプロクラブのアカデミーには現在約12500人が所属しているが、その中からトップの選手に育つ可能性はたったの0,5パーセントという数字がでている。トップチームが海外代表選手を高額な移籍金で獲得できる環境のなかで、アカデミーはどのように選手を育て上げるかは大きな課題である。

 育成年代の施設を訪れると、スタッフの口から「相対的年齢効果」という言葉をよく耳にするになった。相対的年齢効果とは、学校の学年が切り替わる日の直後の月(イギリスは9〜11月、日本の場合は4〜6月)に生まれた者の方が、切り替え日の直前 の月(日本でいう1〜3月)に生まれた者よりもフィジカル的に成熟しているというものである。スカウティングを行う場合、目立つ子というのはやはりフィジカル的要素で優れている選手の場合が多い。その結果、プレミアリーグのアカデミーには50パーセント近くの選手が、9月から11月生まれの選手であることが発表されている。

 トッテナムの育成を訪れた際にもギャリー・ブロードハースト氏が所属するU−10の選手たちを誕生日順に並べると体が大きな選手と誕生日が早い選手たちとほぼ一致していた。

 ここからが興味深いのだが、イングランド代表として50試合出場した長年に渡って活躍した57名の名選手たちの誕生日の46パーセントが5月から7月という事実がある(日本でいう早生まれの1月から3月)。

 イギリス国内では、13歳から16歳までの中学年代に75パーセント以上の選手がサッカー選手としてのキャリアをストップさせていくのだが、その中でもフィジカルを武器に戦ってきた選手のドロップアウト率が非常に高い。

 反対にフィジカル的に優れていない早生まれの選手たちが、パワーやスピードだけに頼らずに頭を使ってどのように問題を解決すればということを日頃のトレーニングに取り組み、生き残る術を考えぬく力が備わったと言える。

 選手が大成するには様々な要因が関わっているため、ひとつには断言できないが選手寿命が長い選手にはフィジカルに大きく依存している選手はほぼいない。

 これまで育成年代を指導してきたコーチは目の前の勝利が欲しいために、その時点でパワーとスピードを重視した選手を選んでしまいがちであった。相対的年齢効果という観点を理解することで、現時点でフィジカル面は劣りながらも、サッカー頭脳のレベルが高い選手を切り捨ててしまうという可能性も考慮できる。英国の育成システムの変革が進み始めていることが垣間見られた。(ロンドン通信員=竹山友陽)

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