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【コラム】海外通信員

サンパウロFCの新サッカー部エグゼクティブディレクターにライーが就任

[ 2018年1月10日 19:45 ]

1992年トヨタカップ(対バルセロナ)に向けて、練習するサンパウロ所属時のライー(左)
Photo By スポニチ

 今から24年前の1994年、アメリカW杯でブラジル代表は24年ぶりに世界王者に輝いた。この決勝の舞台に二人の偉大なるプレーヤーがいなかったことを覚えているだろうか。このチームをずっと率いてきたキャプテンのライーと精神的柱であり守備の要であったDFリカルド・ロッシャだ。リカルド・ロッシャはW杯開始直前の怪我で戦線離脱しながらも、チームを陰から支え、ライーは疲労でフィジカルコンディションが万全でなく大会の終盤戦にリザーブに回っていた。最終的にキャプテンとして優勝トロフィーを掲げたのはドゥンガだったが、予選からずっとチームの和を保った真のキャプテンはライーだったとチームメート達は言う。二人がいなければ24年ぶりの優勝はなかっただろう。

 さて、そんな二人が再び顔を揃えることになった。舞台はサンパウロFCだ。ライーがサッカー部門のエグゼクティブディレクターに就任し、リカルド・ロッシャをサッカー部門コーディネーターとして招へいした。

 ライーという人は、現役選手でありながら大学、それも歴史科に入学したというインテリ派でブラジルサッカー界で希有な存在。引退後もフィールド外でも精力的に活動をしている。

 すべての人がスポーツで健康的な生活ができるよう権利を実行できるように、元スポーツ選手が集結してリーダーシップを持って、公共スポーツ活動のための法律や制度の改革への参加を通して進めるという活動の『アトレッタス・ペロ・ブラジル』の創設者及び会長を務める。

 2015年から2年間、UEFA主催のExective Master for International Players、通称UEFA MIPで学んだ。世界各国の女性を含めた元代表選手24人が集まってロンドン、オランダ、フランスと各地で年に数回集合して様々な分野の講義があり、各地の施設見学をするエグゼクティブ養成コース。成功した選手時代から、セカンドキャリアのブラッシュアップのためリーダーシップ力、プランニング力、アナライズ力、マネージメントを学び、実行するための特別なコースである。

 そして、ライーが最も力を入れて取り組んできた活動が『ゴウ・デ・レトラ財団』だ。リオとサンパウロの貧しい地区で教育、スポーツ、芸術活動、職業訓練を通して子供たちにさまざまな可能性を伸ばしてもらおうという社会活動だ。フランス時代に活動のインスピレーションを得て、ブラジルに帰国した98年から始まった活動は今年20年を迎える。これまでに数千人の子供たちを社会に送り出している。

 人格者、インテリ、リーダーとライーを讃える言葉はいくつも出てくる。そんなライーが不振にあえぐブラジルで最多の世界タイトルを持つサンパウロFCのサッカー部門の復活を指揮をすることになったのだ。クラブの英雄的存在として揺るぎないリスペクトをサポーターから受けるライーだが、簡単にことが進むかどうか不安材料は多い。

 昨年、ライーと同じくクラブの英雄的存在の元GKロジェリオ・セニが監督に就任した。その前年、クラブは不振にあえぎ監督を4人変えてはみたものの芳しい結果が出なかった。クラブの危機を救うために呼ばれたのが、ロジェリオ・セニだった。25年という長きに渡ってクラブに所属し、名GKでありながら、PKやFKを蹴る世界最多のゴール記録を持つGKだ。セニのGK時代のリーダーシップや功績からサポーターも歓迎したはずだった。しかし、監督としての経験があまりにもなさ過ぎた。不甲斐ない成績しか出せず、わずか半年で解任となったのだ。その後も全国リーグで2部落ちの危機に長くさらされて、終盤戦でなんとか勝ち点を増やし危険ゾーンから脱したものの、5年間タイトルから遠ざかっている現状にサポーターの不満は増え続けるばかりだ。

 そこで呼ばれたのがライーだ。会長から好きなようにやって良いと白紙委任状を渡され、信頼できる右腕として選んだのが戦友リカルド・ロッシャだった。

 「ライーならサンパウロFCを救ってくれる」というポジティブな声もあれば、「ライーは沈没船に自ら乗り込んだ」というネガティブな声もある。

 しかし、ライーは極めて冷静だ。「挑戦する時にリスクはつきものだが、私は立ち向かうことに決めた。ここ数年、良い結果が出ていないということは、何かが間違っているということだ。それを見つけて我々は学ばなければいけない。サンパウロFCの伝統、歴史、勝利のスピリットをリスペクトして、サンパウロらしさ、アイデンティティを取り戻さなければならない。でも、私はいきなり全てを変えてしまう気はない。既にいる人たちとの和を保ちながら、少しずつ自分のやり方を伝えていきたい。」

 類い稀なリーダーシップと実行力を持つライーがクラブをどう建て直すか。今シーズンのサンパウロFCの行方に注目が集まる。(大野美夏=サンパウロ通信員)

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