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【コラム】海外通信員

イングランドサッカー協会が新設したタレント発掘ライセンスとは

[ 2017年4月23日 06:00 ]

 育成年代、代表レベルともにドイツやスペインに後塵を拝しているイングランドだが、ここ数年協会主導で育成年代の大きな改革がなされている。その改革案のひとつにタレント発掘プログラムが組み込まれている。

 イングランドサッカー協会のTalent Identification (才能発掘)という部署でトップを務めるリチャード アレン氏は、タレント発掘ライセンスを他の国に先駆けて導入した。ロンドン市内で行われたインタビューでも、才能をどのように発掘するのか、その才能をどのように育成していくか、育成の環境作りの重要性を強調した。

 「より良いスカウティングを広めるために、まずは5段階のライセンスを導入しました。タレント発掘の資格の導入は初の試みです。これまでは、資格といえば、コーチや監督のために用意されたものでした。しかしながらチーム作りの最初の一歩は、選手を集めること、タレント発掘、スカウティングから始まります。もしも将来の可能性が低い選手を集めれば、最終的なゴールにたどり着く可能性は低くなります。ここまで明確な指針が無い状況でスカウトが行われてきており、若い選手にお金が渡るなど非人道的なこともありました。

 また現在においてもクラブのオーナーが、大きな権限を持つテクニカルダイレクターを採用する際、「君はとてもいい人物なので、あすからうちのクラブのテクニカルダイレクターを頼みたい」という人事が行われ、翌日には75億円の資金があるので選手を獲得してほしいと要望を受けます。ディレクターのような非常に重要なポジションに専門的な資格が無いのは大変おかしな事なのです」

 QPRやトッテナムなどのクラブチームで育成ダイレクターなどをこれまでに務めた経験があるアレン氏だが、将来的な才能をもった選手をクラブチームや代表チームにスカウティングする際にどのような視点を持っているのだろうか。

 「例えば5〜7歳の時点で、その選手が将来的に代表選手になれるかどうかを判明する事は不可能です。フィジカルの成長を含め、過程を予測する事は難しいからです。そんな中でも小学生年代の選手を選ぶときには幾つかのポイントがあり、まずはゲームに対して熱心であるか、笑顔で楽しんでいるなど、シンプルな事です。現在私たちの部署で取り組んでいることは、選手のプロファイルの作成です。それもかなり掘り下げた内容となっており、選手の年齢、ポジション別の特性、 ゲームの理解力等も含めます。代表チームとクラブチームでのパフォーマンスが異なる理由なども研究しています。

 また、選手をスカウトする際に、プレー中にワォ!となる瞬間があることも大事です。ハリーケインのように、観客が思わず立ちあがってしまう瞬間を作れることはどの年代においてもとても大事です。具体的に言えば、想像を超えるボールコントロールの技術であったり、勇敢なタックルであったり、美しいGKのセービングであったり。 その他の面では、キャラクターを観察し、将来どのような人間になるかを見極める事が大事だと思っています。学ぼうとする姿勢がある選手はいつでも可能性があります」

 育成年代では、生まれた月によって生じるフィジカル的な差(イギリスでは学年が変わる9月生まれが優位と言われている)を考慮することや、バーディのような一旦消えてトップレベルに戻って来た「ゴースト」のような存在である選手をどのように再発見し拾い上げるためのシステムについてなど、話は尽きることはなかった。 アレン氏は、これまでに指導者講習などで日本に何度も訪れたことがあり、日本サッカーにも造詣が深い。日本サッカー界をどのように見つめているか、アジア近隣諸国も含めた感想でインタビューを締めくくった。

 「日本のやり方というものを直接見させてもらい感じることは、スペインやブラジルの方を雇って、各国のやり方、コンセプトを模範としていると感じます。しかし、日本はブラジルではないので、すべてを真似ることは不可能なのです。スペインの真似をしてもスペインに勝つことはできません。天候も違えば、食事も違う。人種だって文化だって違うのです。イングランドの方向を定めるときに、スペインの人々が必要でしょうか。良い点をコピーして参考にすることはもちろん大事でしょうが、すべてを取ってしまってはいけません。それがあなたの国に合うかどうかもわかりません。

 ある期間、外国人コーチを雇うことは自国の人々を育てる上では大事になってくるでしょう。しかし、ある時点からフィロソフィーを確立し、そのDNAをもった選手が育ってくることが必要で、それをどのようなコーチングを通じて代表まで送りだすことができるか。それはまさしく現在イングランドが行っていることです。それは日本も同じことではないでしょうか。

 放送権料がJリーグに入り、各クラブが増収人になると聞いています。しかしながら、中国の動きに注意しなければ、日本と韓国はいずれ追い抜かれてしまうかもしれません。中国では、クラブ自身が多くの投資を行っています。信じられないような金額で投資がなされ、マンチェスター・ユナイテッドさえも購入しようと話さえも聞きます。いずれ世界のリーグの仲間入りをするでしょう。マレーシアなどの国境も超えて、リーグは拡大するかもしれません。中国のゲーム自体の質を様々な方面からあげようとしています。日本の成功例も参考しています。お金が目当てにならずに中国サッカーの発展を目指している人がいることも事実です。韓国も違った手法をとってくるでしょう。近隣諸国の動きがより競争力を生むことは間違いないのでしょう」(ロンドン通信員=竹山友陽)

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