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「俺、熱いよ」鹿島MF中村 ガッツポーズの意味とは

[ 2017年6月9日 11:50 ]

広島戦の前半、先制ゴールを決めて喜ぶ鹿島・中村(左)
Photo By 共同

 いささか驚くくらい、大きく、力強いガッツポーズだった。6月4日、鹿島のMF中村充孝(26)は、J1広島戦で今季初ゴールを決めた。左のネットを豪華に揺らすと、右手の拳を体の脇で握り、空に向かって下から一直線に突き上げた。雄叫びがスタジアム上部の記者席まで聞こえてきそうなくらい、力がみなぎっていた。

 広島戦は、鹿島にとって特別な一戦だった。試合の4日前に、昨季チームをリーグ優勝に導いた石井監督を解任。コーチから後任に昇格した大岩新監督が、監督としての初采配を振るった。左MFの先発に抜てきされたのが、中村だった。

 今季はあまり出番に恵まれていなかった。リーグ戦の出場数はこの試合が6戦目(先発は3試合)。アピールには絶好の舞台となった。先のシーンは前半14分。ドリブルで突き進んだMF土居からパスを受け、ペナルティーエリア右から右足を振り抜いた。3―1の快勝を呼び込む先制点は、大岩新監督にとっての“第1号”となった。

 試合後、試合の内容に関する一通りの質問が一段落したころだったか。冒頭のパフォーマンスに関して、記者から質問が出た。

 「見ている人に、“俺、熱いよ”っていう(伝える)パフォーマンス」。

 中村は静かにさらっとそう口にした。冗談のようにも聞こえる言い方だった。取材はすぐに別の話題に流れた。でも、個人的にはとても感慨深い言葉だった。

 4カ月前、中村からある変化を感じた試合があった。2月11日のJ2水戸とのプレシーズンマッチ。まだFWペドロ・ジュニオールやMFレアンドロ、FW金森ら前線の新戦力がフィットしきれていないころだった。先発した中村の、スルーパスに鋭く食いつき、ゴール前に迫力を持って飛び出す姿が印象に残った。

 スタジアムを去る前、強い気迫を感じたことを伝えると、中村はこう言った。「ゴール前にアグレッシブに入っていくことを、もっとオーバーに、やり過ぎなんじゃないかと言われるくらいやらないと、負けちゃうと思うから」。迫り来る強力なブラジル人新戦力とのポジション争い。「感情を表に出すプレーヤーではない」という自身の殻を打ち破っていこうとする意志が感じられた。

 ようやく日の目を浴びた4カ月後の広島戦。ネットが揺れた瞬間、きっと喜びはこみ上げてきたに違いない。けれど、試合後の冷静な話しぶりや先のコメントを聞くうちに、ふと今季初めの言葉が頭をよぎった。何気ないように口にした言葉。そこには、深い意味が隠されているように思えてならなかった。(波多野 詩菜)

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2017年6月9日のニュース