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4・16本震から1年…熊本FW巻 復興マッチで再起の誓い 勝って笑顔届けたい

[ 2017年4月15日 13:20 ]

熊本地震からの1年を振り返った写真を横に、「みんなでえがおの熊本を!」と記した色紙を手にする熊本・巻
Photo By スポニチ

 熊本地震から1年となった14日、街は鎮魂の祈りに包まれた。復興への光となるべく、走り続けてきたJ2ロアッソ熊本のFW巻誠一郎(36)の本紙独占インタビュー続編。16日の熊本地震復興支援マッチ(対松本、えがおスタ)で、再起の誓いを胸にまた新たな一歩を踏み出す巻は、色紙に「みんなでえがおの熊本を!」とつづった。(聞き手・東山 貴実)

 ――地震後、いち早く支援活動を始めた。

 今、思い返してみると、そうですね。その時はそんなことは考えてないですけど。日頃からしっかり緊張感を持って、いろんなことを感じながら、心構えというか。例えばチーム内でも人のやりたくないことを気付いてやったり、なかなか言いたくないことを言ったり…。そういう日々の積み重ねが生きたのかなと思う。普段から“俺はプロサッカー選手。それ以外のことは知らないよ”という態度を取っていたら、いろんな人ともつながりを持てず、復興支援で立ち上がっても孤立していたかもしれません。

 ――地震を経験し、サッカーに対する姿勢も変わった。

 今までは普通にスタジアムが使えて、当たり前のようにたくさんのお客さんが来てくれて、声援で僕らを後押ししてくれた。それが地震で当たり前が当たり前ではなくなった。当たり前の日常が最高のことなんですよね。だから、ピッチの中では最後の1分、1秒まで諦めずに走ろう、と。そのために普段のトレーニングからしっかり準備する。地震前もそうやっているつもりだったけど、今、地震前と照らし合わせて考えると、どこかに甘さがあったなというふうに感じる。

 ――巻選手の言動、プレーに勇気や元気をもらった県民は多かった。

 正直、勇気づけられたかというと、そうとは言い切れない自分がいて、罪悪感もある。ホームでなかなか勝てなかったし、サポーターの皆さんに笑顔で帰ってもらうことが少なかったので。復興に似て、なかなか思い通りにいかないもどかしさも感じていた。ただ、避難所で出会った方で、それまでスタジアムに来たことがなかったけど、地震後から継続的に来てくれている人も多くいて、「厳しい時期に助けてもらったので、今度は僕らが返しますよ」と言ってもらえた。心強かった。そういう言葉を聞いた時に、僕らも与えるだけでなく、たくさんのものをもらっているんだなと改めて感じました。そうやって、みんなで復興に向かうんだな、と。

 ――地震からリーグ戦復帰後4連敗で迎えた昨年6月8日の金沢戦で待望の勝利。同戦前のミーティングでは。

 リーグ戦が再開しても全然勝てなかった。選手誰もが使命感、責任感を持って、勝ちたいと思ってやっていたし、みんな足がつりながらもギリギリのところまで走って戦っているのに、なんで勝てないのだろうと。その原因が気持ちや戦術じゃないというのはうすうす感じていた。チームが一つになっていないと。サッカーは11人でやるスポーツ。小さいけど足の速い選手がいたり、テクニックのある選手がいたり、僕みたいに大きくてヘディングの強い選手がいたり。いろんな選手の組み合わせで成り立っている。“頑張ってはいるけど、一人一人のいいところが出てないよね。もう少し仲間のことを信じてやろうよ。自分たちのいいところをみんなで引き出し合おうよ”という話はミーティングでした記憶がありますね。1+1=2じゃなく、2以上を引き出せるのがサッカーというスポーツだと僕は思っているので。

 ――この先も熊本地震、そこからの復興の道のりはクラブの歴史に刻まれていく。

 僕らのクラブはJリーグの中でも財政規模、選手も含めて決してトップクラスではない。ただ、熊本という名を背負っている以上、クラブ、選手、サポーター、県民の皆さんと融合しながら、助け合って、ともに前に進んでいくのが僕らがこれから歩んでいく道。今年のチームとして言えば、我慢強く順位を1つずつ上げて、気付けば最後はJ1昇格を争える位置にいるのが最高の形だと思う。個人的にはFWとしてゴールを取るだけでなく、チームの勝利につながるゴールを一つでも多く取らないといけないと思っている。

 ――本震から1年となる16日には復興支援マッチが行われる。

 (リーグ戦)42試合の中の1試合ではあるけど、4月16日という特別な日に、ホームで、それも地震後初めてスタジアム全面を使って試合をやらせていただける。大切な試合。勝負事だし、相手もいることだし、もしかしたら負けるかもしれない。ただ、僕らが最低でも示さなければならない姿勢は、最後まで諦めずにボールを追うことであり、チームのために戦うことであったり。そこだけはうそ偽りなく、全国のサッカーファミリーに約束できる部分。そういう姿勢が自分たちの方に勝利をたぐり寄せることにもなると思う。チームは4連敗中だけど、昨年も苦しい時期は何度もあったし、サポーターを含めてチーム一丸で乗り越えてきた。必ずもう一度、勝ち星を積み重ねていけるようにしないといけないし、そのためにも大切な試合。勝てなくても悲観することはないけど、やっぱり僕らはこの試合に勝ちたい。

 ≪熊本地震復興支援マッチ≫えがお健康スタジアム(熊本市東区)での松本山雅FC戦。18時キックオフ。昨年は安全確認が終了したメインスタンドのみを開放していたが、同戦で熊本地震後、初めて全面使用可能となる。当日券販売開始は15時。Jリーグの村井満チェアマンも来場する。試合前のピッチではJ2熊本のOB選手による20分ハーフの前座試合を実施。また、スタジアムグルメ広場特設ステージでは、ロアッソファンで知られるお笑いコンビ「スピードワゴン」の小沢一敬らがイベント出演。くまモンはもちろん、福岡、鳥栖ら九州のJチームのマスコットも集合する。

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2017年4月15日のニュース