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理想とは不満の意…ハリルジャパンの中の本田圭佑

[ 2016年11月15日 08:55 ]

サウジアラビア戦に向けて練習する本田

 【鈴木誠治の我田引用】女勝負師のスゥちゃんが、NHKの連続テレビ小説「べっぴんさん」を見ながら、吐き捨てるように言った。

 「だから、日本の男はダメなのよ!」

 怒りの矛先は、戦地から帰還したものの仕事がなく、妻にミエを張るだけでは足りずに、文句までぶつける勝二(田中要次)だ。揚げ句の果てに酒に逃げたところで、スゥちゃんの怒りは頂点に達したようだ。

 まあ、「日本の男」とひとくくりにするのは乱暴でも、男には理想を夢見るだけで行動せず、自己嫌悪の裏返しで他人にやつ当たりしたり、イジけて慰めを求めたりする弱さがある。もちろん、わたしにも身に覚えがある。

 その、「理想」というやっかいものと長らく闘っているのが、サッカーの日本代表だろう。日本が目指すべき理想のサッカーとは。ぼんやりと方向性は見えても、形になったことは、まだないように思える。ハリルホジッチ監督が就任してからは、さらに方向性が混迷している印象で、監督の辞任騒動の一因にもなっているようだ。

 そんな中、「行動」を起こした選手が現れた。11月8日、代表合宿のために帰国した本田圭佑選手は、ハリルホジッチ監督と選手との溝を埋めるために直接会談すると明かし、15日のサウジアラビアとの負けられない試合に向けてこう話した。

 「理想のサッカーを見せたいけど、そんなに甘い試合にはならない。泥くさくても、勝ち点3を取りたい」

 理想とは、不満の意を表現する方法のことである

 フランス人作家、ポール・ヴァレリー氏の名言の一つだ。人は時に、理想という言葉を使って現実から逃避しようとしたり、理想を掲げて現状を壊そうとする。だが、多くの場合、不満を理想に言い換えただけで、理想に至る道筋や、確固とした理想の形など、ないことの方が多いようだ。

 本田選手は、11日に行われた親善試合のオマーン戦の前に実際に監督と直接会談した。「縦に速く」を求める監督の戦術に、時に「遅攻も交ぜて試合を組み立てる」選手側の要望を伝え、「自由にやれ」との答えを引き出した。理想はあるが、現実はそんなに甘くない。それならば、今できる最もいい方法を探す。「日本の男」とは思えない、極めて行動的なやり方で現状を変え、オマーン戦を4-0の快勝に導いた。

 しかし、そのオマーン戦で本田選手は窮地に陥った。後半16分に交代を告げられた試合後、ハリルホジッチ監督から「試合のリズムが足りない選手がいることを確認できた」と酷評された。自ら行動し、道筋をつけたサウジアラビア戦で、本田選手はスタメン落ちの可能性が浮上した。

 それでも「見返したい気持ちがなければ、サッカーをやめた方がいい」と強い意欲を口にした。W杯アジア最終予選前半戦の最大のヤマとなるサウジアラビア戦は、日本代表だけでなく、本田選手にとっても重要な試合になる。ヴァレリー氏には、こんな名言もある。
 湖に浮かべたボートをこぐように、人は後ろ向きに未来に入っていく。目に映るのは過去の風景ばかり。明日の景色は誰も知らない

 「理想」という未来だけでなく、「実績」という過去とも、人間は闘わなければならない。サウジアラビア戦には、どんな景色が待ち受けているのだろう。

 ◆鈴木 誠治(すずき・せいじ)1966年、静岡県浜松市生まれ。立大卒。ボクシング、ラグビー、サッカー、五輪を担当。軟式野球をしていたが、ボクシングおたくとしてスポニチに入社し、現在はバドミントンに熱中。

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2016年11月15日のニュース