×

サッカーの心理戦 大久保を退場させた巧みなワナ

[ 2016年9月25日 08:30 ]

9月17日の大宮戦前半、川崎F・大久保(右から2人目)が退場になる

 【大西純一の真相・深層】一流だから狙われる。一流だからこそかわさなければ――。川崎Fが9月17日の大宮戦で、2―3で敗れて、第2ステージ首位から3位に後退した。勝てばチャンピオンシップ出場が決定したが、前半36分に大久保嘉人が相手のファウルに対して報復し、退場になった。10人になった川崎Fは中村憲剛、小林悠のゴールで一度は逆転したが、終盤で数的不利が響いて2失点し、逆転負けした。

 大宮の周到な仕掛けだった。まともにいっては、川崎Fに勝てないと思ったはず。実際、立ち上がりから川崎Fにボールを保持された。川崎Fは前線の大久保、中村、小林の3人がみごとな連係を見せていた。しかし、前半30分を過ぎても先制できず、ちょっとイライラし始めた時間帯に落とし穴があった。大久保がファウルで倒され、起き上がったところで背中を突かれて倒され、つい冷静さを欠いて報復してしまった。どこまで意図的かはわからないが、結果的には大久保をワナにはめた形になった。

 中村は「これもサッカー」と言ったが、サッカーのテキストに書かれていない戦術、心理戦だった。80年代にはマラドーナが狙われ、報復して何度も退場になった。2000年代にはルーニーがやられた。06年W杯ドイツ大会決勝ではフランスのジダンが、汚い言葉でののしられてイタリアのDFに頭突きをしてピッチを去った。エースを退場させて相手を10人にするために、あの手この手でイライラさせることは昔からの常とう手段。もちろんその手に乗らない選手もたくさんいる。三浦知良や佐藤寿人らはグッとこらえる。まさにエースの心得だ。

 大久保は今回で12度目の退場で、Jリーグ歴代2位、川崎Fも12年オフに獲得する時は、そこを懸念したという。だが、30歳代になって変わった。若い頃はよくワナに引っかかったが、この6年間で退場はこれが2度目。すっかり自制できるようになっている。練習後のファン対応は嫌な顔をせずにやるし、取材も真摯(し)に受ける。雑談にも応じるし、顔見知りではない記者の質問にも答える。Jリーガーの手本といってもいいほどだ。それでも、一度付いたイメージは簡単には払拭できず、退場になると「またか」と思われてしまう。

 今回の退場は、優勝がちらついてきたことから来るプレッシャーだろう。もちろん大久保もよくわかっているはず。そして、ストライカーには挽回のチャンスがある。ゴールを決めて、チームを勝利に導く――結果で答えればいい。(専門委員)

 ◆大西 純一(おおにし・じゅんいち)1957年、東京都生まれ。中学1年からサッカーを始める。81年にスポニチに入社し、サッカー担当、プロ野球担当を経て、91年から再びサッカー担当。Jリーグ開幕、ドーハの悲劇、ジョホールバルの歓喜、W杯フランス大会、バルセロナ五輪などを取材。

続きを表示

2016年9月25日のニュース