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「空からですが、ぜひ頑張りたい」岩田和磨くんもVERSメンバーに

[ 2016年1月17日 17:28 ]

ユニホームを着た遺影の中で微笑む岩田和磨くんと父親の男性(中)。左は東京Vの冨樫剛一監督、右は羽生英之社長

 J2東京Vは17日、東京・稲城市のクラブハウスで今季の新体制発表に続いて、ファン・サポーターが選手になれる画期的な商品「VERS(ヴェルズ)」(Verdy Expanded Roster System)により加入した19選手の契約調印式を行い、昨年8月21日に脳腫瘍のため10歳で亡くなった岩田和磨くんの父親で、東京・江戸川区在住の男性(48)も出席。息子の代わりに契約書にサインした。

 あどけない笑顔を浮かべる和磨くんの遺影に背番号55のついたユニホームを着せて壇上に立った男性は「このたび、おそらく日本で最年少のプロサッカー選手になると思います。岩田和磨です。こういう形になってしまいましたが、10歳です。ゴールキーパーをずっとやっています。今回夢であったプロサッカー選手になれたということで、ぜひ、自分がゴールキーパーとして相手のゴールを止めるというつもりで、一緒に戦っていきたいと思います」と挨拶。「空からですが、ぜひ頑張りたいと思います」と話すと、隣に立っていた羽生英之社長(51)は無言で目頭を押さえた。

 和磨くんは小学校入学後に自宅近くのクラブチームに入り、ゴールキーパーとしてプレー。「下手なんですけど、夢としてはプロになりたいと言っていました」と男性は振り返る。Jリーグも大好きで、せがまれて初めて連れて行った試合が旧国立競技場での東京V戦。体調の悪化により、「結局、その試合を含めて2試合しか生で観戦はできなかった」というが、他界から3カ月後の昨年11月に妻(43)が偶然目にした新聞でVERSのことを知り、「こういう夢のある企画。色々な人と一緒にJリーグの選手になれる機会を設けてもらって本当にありがたい。本当にプロになれたかどうかは分からないけれど、果たせなかった夢がこういう形で少しでも現実にできるのであればと思って」と2年間の闘病の末に志半ばで亡くなった息子のことを思って申し込んだ。

 VERSに参加するには25万円という決して安くはないお金がかかる。だが、「息子が本当にプロになるのなら、親としてはもっと息子にお金をかけてあげたかった。それを考えれば…」と男性は話す。「たった10年しか生きられなかった。これからも楽しいサッカー人生があったかもしれない中で、どうしても果たせない夢があったので、お金の大きい小さいではなかった」。会場入り後、楽しげな他の参加者たちの空気を感じて申し訳ないとの思いを抱き、1度は出席をとりやめようとしたという。だが、VERS選手となった周囲のサポーターたちから「ぜひ!」「写真持って出たらいいじゃない」と背中を押され、会見場に足を踏み入れる決意を固めた。「ヴェルディのファン、サポーター、クラブの人たちには本当に感謝しています」。和磨くんが東京Vと結んだ契約は12月31日まで。男性はスケジュールが許す限り、亡き息子の代わりに参加するつもりだ。

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2016年1月17日のニュース