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日本代表「必然」の勝利 王者スペインの油断

[ 2012年7月28日 10:16 ]

<日本・スペイン>後半、マタ(右)と競り合う扇原

 【金子達仁の五輪戦記】スペインのスポーツ紙「マルカ」は、この試合に「五輪のつまずき」というタイトルを付けた。思わぬ敗北、負けるはずのない試合をとりこぼした――そんなニュアンスが感じられるタイトルである。

 なるほど、彼らが負けた理由がよくわかった。

 日本人の中にも、この勝利を「奇跡」と表現する人がいるようだが、それは、アトランタ五輪で起きた本物の奇跡に、あるいはグラスゴーでスペインを倒した選手たちに失礼というものだろう。アトランタでの日本は、海外はおろかJでも定位置を確保できていない選手もいるチームだった。A代表がW杯に出場した経験はなく、にもかかわらず、相手のブラジルにはロナウドやベベットといったキラ星のごときスターが揃(そろ)っていた。なぜ勝てたのか、その理由をわたしはいまも説明することができないし、ゆえに奇跡だったのだと思っている。

 今回の勝利は違う。選手たちは世界で戦う日本を常識として育ち、なでしこが世界一になったことも知っている世代である。アトランタのころとは比較にならない自信と経験値を持ったチームが、アトランタのブラジルに比べれば相当に落ちるスペイン、イニエスタやシャビのいないスペインと戦ったのだ。しかも、勝てそうな気配が何もなかった南アでの日本代表とも違い、今回の五輪代表は壮行試合のあたりからやってくれそうな気配を強く漂わせていた。この勝利は奇跡どころか、順当、あるいは必然といってもいい。

 ただ、その要因としてスペインの油断があったのも事実である。

 日本はアトランタの時よりはるかに強く、スペインはアトランタのブラジルよりはるかに弱い。にもかかわらず、スペイン人のメンタリティーはアトランタの際のブラジル人とまったく同じだった。アトランタで痛恨のミスを犯したアウダイールは「日本なんか研究するに値しないと思っていた」と述懐したが、今回のスペインが犯したのも、まったく同じ過ちである。

 永井は速い。日本人ならば誰でも知っていることを、スペイン人は知らなかった。知らなかったがゆえに、ズバぬけたスピードにうろたえてしまった。あらかじめ知っていれば十分に対処できたはずなのに、世界最強国であるという過剰なプライドが、日本に対する研究を怠らせた。チームだけではない。この負けを「つまずき」と表現したメディアにも、大津のマークを離したとしてネット上でモントーヤを袋叩きにしているファンにも、明らかな油断があった。

 スペイン代表のニックネームは「ラ・ロハ」。英訳すれば「ザ・レッド」である。「驕(おご)る平家は久しからず」と言われた名門を象徴する色も、確か赤だった。 (スポーツライター)

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2012年7月28日のニュース