
月影瞳、宝塚での有終の美飾る 雪組「オーバー・ザ・ムーン」
来年2月12日の東京宝塚劇場公演千秋楽で退団が決まっている雪組の娘役トップスター、月影瞳のためのバウ・ワークショップ「オーバー・ザ・ムーン」(荻田浩一作、演出)が、11月24日から26日まで5ステージ行われた。今回はこの公演の模様をリポートしよう。 娘役トップの退団前のリサイタル形式の公演としては月組のトップだった風花舞のダンスリサイタル以来となるが、今回は、月影が1990年に初舞台を踏んでから出演したほとんどの作品の主題歌を歌詞もそのままに使いながら、一人の女性の物語としたユニークかつエンタテイメント性あふれる凝った構成。月影の宝塚生活の最後を飾るにふさわしい見事な作品となった。 月影扮するグレイスという大女優がヒロイン。人気絶頂だった彼女だが、撮影をすっぽかし、女優を引退していた。しかし、いま彼女の半生を描いたリサイタルからカムバックしようとしていた。その舞台げいこの日、新米の新聞記者フレッドが彼女を取材しようと劇場にやってくる。 そこで繰り広げられる舞台げいこの様子からグレイスという女優の物語が語られていく。フレッドの目から見た実際のグレイスと、劇中劇を生きるグレイスという二重構造の面白さがあるうえに、女優をやめて新たな人生を再出発しようとしているグレイスに月影本人がダブる。非常に巧妙かつ複雑で刺激的な脚本。宝塚の次代を担う荻田浩一氏の鮮やかな作劇である。 しかし、決して難解ではなく一人の女性のドラマとしてよく書き込まれている。そして、物語は月影がこれまで12年間に出演してきた花、星、雪組の作品の主題歌で綴られていくのである。たとえば「ファンシー・タッチ」(92年)の「パスタ・ガール」などという懐かしい曲がドラマの重要なポイントの曲として効果的に使われているほか「ベイ・シティ・ブルース」(93年)の「スピーク・ロウ」や「スパルタカス」(93年)の「いつでも夢みてた」などもいいところで使われる。「エリザベート」(96年)からは「ママ、どこにいるの」ときちんと月影が演じたルドルフ皇太子の曲が登場するという凝りよう。「凍てついた明日」(98年)からの「ブルース・レクイエム」は、安蘭けいが月影のためにカゲソロを務めるという豪華版。 そんなこんなでオリジナル2曲を含めてよくぞ集めた全36曲、これがきちんとミュージカルナンバーになっているところがユニークだ。 月影はやめてしまうのが惜しいくらいのあでやかさ。まさに一番旬の時期で散るという彼女のポリシーが感じられた。男役主演ではない娘役主演のドラマの華やかさもあり、たまにはこういう舞台もいいのではと思わせる。 共演の男役陣は愛人アンリに扮した立樹遥、俳優仲間のポールに扮した壮一帆がスタークラスでそれぞれ適役好演。しかし、それ以上に目立ったのがフレッドに抜てきされた3年目の神月茜のさわやかな演技。彼女の存在が舞台全体を非常にすがすがしいものにした。声量のある歌にも注目。あと、ボディガードのチッチとミッチのコンビ、天希かおりと風見優もコメディリリーフとしての役割を嫌みなく果たしていた。 とにかく、稽古期間が少なく、上演期間も短いこの手の作品で、奇跡のような珠玉の作品となったといえよう。東京公演がないのが惜しまれる。 (薮下 哲司) |
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| ● 薮下 哲司(やぶした・てつじ) ● 大阪府生まれ。関西大学文学部仏文科卒。71年スポーツニッポン新聞大阪本社入社。77年文化部に配属、放送、音楽などを担当後、現在、特別委員として映画、演劇を担当している。宝塚歌劇は80年から担当、劇団発行の「宝塚グラフ」バウ公演評「歌劇」新人公演評を歴任。著書に「宝塚の誘惑」(共著)「宝塚伝説」「宝塚伝説2001」「宝塚歌劇支局」(青弓社刊)がある。05年、毎日文化センター(大阪)で「タカラヅカの魅力」講座を開設、07年から甲南女子大学非常勤講師に、宝塚講座を持っている。 |



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