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【パラリンピアン支える力】利益度外視で「本当のものづくり」

[ 2016年9月10日 07:30 ]

車いすバスケット用の車いすをメンテナンスするオーエックスエンジニアリングの結城智之さん

 1人のアスリートが4年に1度の大舞台にたどり着くまでには、多くの人々の支えがある。それはパラリンピック・スポーツも同じ。スポニチでは10日から「支える力」と題し、パラアスリートを支える企業や団体、自治体、個人のサポートに注目する。初回はスポーツ用車いすを製造するオーエックス(OX)エンジニアリング(本社・千葉市)を紹介する。

 106個。OXエンジニアリング社製の車いすを使用した選手が、96年アトランタから獲得したメダルの総数だ。今大会も17人の選手が使用。年間約3000台を生産する同社で、全てオーダーメードのスポーツ用車いすの生産量は、およそ1割にあたる300台ほど。ただ、同社の川口幸治広報室長によれば「スポーツ用はほとんどもうけが出ない」という。それでも事業を続けるのは同社の「ものづくり」精神ゆえだ。

 76年にバイク店を創業した石井重行氏(故人)が、84年4月にバイク試乗中の事故で脊椎を損傷。車いす生活となったが機能、デザインに納得できる車いすがなく、自ら製作したのが転業へのきっかけとなった。「本当のものづくり。いい物、格好いい物がつくりたい」という理念は、つくる物が変わっても不変。テニス男子で史上初の3連覇を目指す国枝慎吾(ユニクロ)を担当する技術者の結城智之氏(36)も、その理念に引かれて大卒後に務めていた造園会社から転職した。「車いすバスケ用の製造では寸法合わせの際、ユニホームを着てもらわないと、服装の厚みで乗れないことがある」というほどミリ単位の精密な作業を求められながらも、職人魂を発揮している。

 現在、同社が力を注ぐのが、子供向けスポーツ用車いすの製造だ。川口氏が「車いすスポーツが高齢化している」と危惧するように、日本の主力選手の多くが30、40代。オーダーメードではない代わりに価格を抑え、10代から本格的にスポーツに取り組んでもらうのが狙いだ。創業者の石井重行氏は「未来を開発する。売れるからではなく、ものづくりで世の中を変えよう」と繰り返した。若い障がい者の未来も拓く。そんな気概は20年東京へとつながる。

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2016年9月10日のニュース