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【立花泰則氏 種目別分析】一気に金ロードへ 流れを変えた加藤の跳馬

[ 2016年8月10日 10:07 ]

<体操・男子団体決勝>内村のあん馬

リオデジャネイロ五輪体操・男子団体総合決勝

(8月8日 リオ五輪アリーナ)
 ≪あん馬 山室の“傷口最小限”≫内村は腰を引かずに体を伸ばした体線の美しい究極の旋回を見せ、重圧の中、会心の演技でまず日本の金メダルへの布石を打った。ところが、次の山室がマジャールで旋回のリズムを崩し右手を持ち損ねて落下してしまった。しかし、そこからの演技は見事だった。ミスを引きずらず、気持ちを修正して残りをきっちりこなし、傷口を最小限に食い止めた。次の加藤も失敗が許されない精神的に追い込まれた厳しい状況で少し危ないシーンがあったが、もともと技の修正幅が広く冷静な選手なのでうまく乗り切った。

 もしここで2人がうまく修正できなければミスの連鎖に陥って早々と自滅していたかもしれない。自滅か金メダルかという明暗の分かれ道でチームを踏みとどまらせた見事な「修正力」だった。

 ≪つり輪 先頭田中で流れ呼ぶ≫田中はトップバッターとして、Dスコアは6.1と低かったが、Eスコアは8.833とほぼ完璧な演技で着地までまとめた。内村も予選より切れが良く、責任感あふれる演技で田中がつくってくれたいい流れを、しっかりそのままつないでくれた。

 最後の山室はあん馬の落下を取り戻そうと力が入ったのか、上水平の力技で爪先が下がるミスが出たものの、その後の内容をきっちりまとめて着地も止めた。ミスはミスとしてすぐに気持ちを切り替えて修正する。そのおかげで金メダルへの道を進むのかミスの連鎖を進むのかという重要な分かれ目で、何とか踏みとどまることができた。

 ≪跳馬 加藤でかした!9・0≫ミスを最小限に抑えたとはいえ、ここまで日本の雰囲気は決して良くはなかった。そんな重苦しい雰囲気を吹き飛ばしたのが3種目目の跳馬の加藤だった。素晴らしい演技でEスコア9.0をはじき出し、流れを一気に日本にたぐり寄せた。この演技が金メダルへの大きな起点になった。これで一気に流れに乗った日本は続く内村が大技のリ・シャオペンを決めてEスコア9.366を叩きだし、内村とともに跳馬のダブルエースの白井も6.0の難度点に対してEスコア9.633のハイスコアをマークした。

 予選の時はさすがに緊張していたのか試技の前に審判員に手を挙げてから演技に入るまでの動作が少し急いでいたように見えたが、今日は国内でやっているようにしっかり自分の間合いで演技に入っていた。自分に任された種目で力を出し切るんだという責任感と使命感が伝わってきた。

 ≪平行棒 内村の危機察知能力≫3種目目の跳馬で白井が日本のひねりの技術力と着地まで決める総合力を見せつけたことが、次の平行棒につながった。

 田中は予選で棒下マクーツ(ヤマムロ)で失敗していたが、この日はしっかり修正しており、いつも通りの演技で着地まで完璧に決めた。加藤も田中に続いて着地を完璧に決め、ミスらしいミスもなく、しっかり次の内村にタスキをつなぐことができた。

 内村は棒下ひねりで少し倒立から外れて危なかったが、「倒立に至らないかも」という高い予測力でとっさに状況を判断して修正した。普段の練習から技の誤差に対して微調整と修正を繰り返し瞬時に脳で処理した感覚を体全体を使いこなして技を修正する。質の高い練習をしている内村だからこそできたことだろう。

 ≪鉄棒 逆転へ描いた放物線≫4種目を終えた時点で1位ロシアと2位日本の差は1.3点。完全に射程圏内に捉えた。しかもロシアが鉄棒を苦手としているのに対し、日本は得意種目の一つ。そんな状況下でまず加藤がカッシーナ、コールマンの高難度の離れ技を決め、着地もきちんと止めて、高い完成度で次の内村にタスキを渡した。内村もDスコア7.0の高い演技構成と質の高い演技。ただ1点だけアドラー1回ひねりで逆方向に戻るミスはあったが、最小限にとどめた。田中は1回ひねりから大逆手になる技で角度の減点を取られたかもしれないが、雄大な離れ技を成功させて、着地までまとめた。

 全員が美しい体線で繰り出す高難度の離れ技、着地までまとめきる技術力と完成度、持てる力を発揮し、最終種目へと移動した。

 ≪床運動 自信を胸に、完璧なバトン≫結果的には最後が得意種目の床運動でよかった。自分たちが自信を持っている、しかも高得点をはじき出せる種目が残ったということで精神的にもよし行くぞ、となったと思う。白井は予選では力が入りすぎてリ・ジョンソンが高く浮いてしまい、着地も大きくずれるなど減点もあったが、決勝ではチームの金メダルムードに乗って自分の役割をきちんと果たし、16.133の高得点をマークした。床運動を得意とする加藤も続き、「しっかり金メダルを射止めてください」とばかりに内村につないだ。

 内村にとってはチームメートから受け取った最後のタスキ。成功すれば結果が付いてくることが分かっている非常にプレッシャーのかかる状況でも、この時を待っていたとばかりにいつも通りの演技をやりきった。着地もきちんとまとめてついに念願の団体金メダルを射止めた。

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