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大野 今大会柔道に待望金1号!暴力問題乗り越え…涙止まらず

[ 2016年8月10日 05:30 ]

一本勝ちで金メダルを決めた大野

リオデジャネイロ五輪・柔道男子73キロ級

(8月8日 カリオカアリーナ)
 男子73キロ級で五輪初出場の大野将平(24=旭化成)が柔道陣の今大会金メダル1号に輝いた。ルスタム・オルジョイ(24=アゼルバイジャン)との決勝戦を含む5試合中4試合で一本勝ち。エースとしての期待に応え、一つもポイントを失うことなく、宣言していた通りの「圧倒的」な強さで勝ち抜いた。前回のロンドン五輪で史上初の金メダルゼロに終わった男子柔道に、待望の金メダルをもたらした。

 有無を言わせずに勝つ。「心技体全てで勝って圧倒的な差をつけることを目標にしていた。柔道という競技の素晴らしさ、強さ、美しさを伝えられたんじゃないかと思う」。男子代表の井上康生監督から「金メダルに一番近い男」と指名を受けた大野は、その言葉通りの勝ちっぷりを見せた。

 組めば次々に投げ、寝技でも追い込んだ。ふてぶてしい雰囲気、凄みすら感じさせる強さ。決勝では接近戦を得意とするオルジョイに対し、相手の体を浮き上がらせてからの小内刈り。海外勢にフィジカルでも引けをとらず、相手の土俵で打ち勝った。

 「大野は試合でもふてくされた態度をしていたからね。味方ばかりじゃなかったんですよ」。講道学舎時代からの恩師である世田谷学園の持田治也監督(51)は、大野の苦い経験を知っている。高2でインターハイを制したが翌年は東京都予選で敗退。絞め技を見逃されるなど不可解な裁定で個人戦、団体戦ともに勝ちきれなかったという。

 「個人戦はいいけど団体戦は消化しきれません。篠原先生はどうやってこれを消化したんですかね」。篠原信一氏は00年シドニー五輪の100キロ超級決勝で、完璧な内股すかしを見逃されて敗れた。持田監督は“世紀の大誤審”を「自分が弱いから」と受け入れた篠原氏と引き合わせ、これが天理大に進むきっかけとなった。

 だが、初優勝したリオでの世界選手権から帰国する日に天理大柔道部の暴力問題が発覚。自らに非があったとはいえ、凱旋なのに祝福など皆無だった。主将を解任され、全日本柔道連盟からは3カ月の登録停止処分。兄貴分として対話を重ねてくれた天理大の穴井隆将監督には「もう一度リセットしよう」と言われ、代表の井上監督ら多くの支えを受けて乗り越えることができた。

 表彰式を終えた後、井上監督から「よくプレッシャーに耐えた」と声をかけられると涙がこぼれた。ミックスゾーンで穴井氏からねぎらわれると、また涙が止まらなくなった。同じリオで世界一になった3年前は、すぐに全てをリセットせざるを得なかった。だから「これからだぞ、という気持ちの方が今は強い」。虚勢を張ったような普段のふてぶてしさは涙ですっかり洗い流されていた。井上監督が目標に掲げ、大野も言う「最強かつ最高の選手」。その姿が少しだけ見えたような気がした。

 ◆大野 将平(おおの・しょうへい)1992年(平4)2月3日、山口県山口市生まれの24歳。7歳で競技を始め、中学から柔道私塾・講道学舎に入門。世田谷学園2年でインターハイ73キロ級優勝。天理大2年時には世界ジュニアを制覇、4年時にリオで開催された世界選手権に初出場し初優勝した。翌年の世界選手権は4回戦で敗れたものの、昨年の世界選手権で2度目の優勝。旭化成所属。1メートル70。得意技は大外刈り、内股。

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