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【メダリストは見た 村田諒太】高藤直寿、強すぎた金への意識…でもそれが五輪

[ 2016年8月8日 11:20 ]

村田諒太

 4年に一度の舞台で結果を出すことが、いかに難しいか。柔道初日の6日、金メダルを期待されて出陣した男子60キロの高藤直寿(23=パーク24)は銅メダルにとどまった。4年前のロンドン五輪、ボクシングのミドル級で金メダル獲得の快挙を成し遂げた村田諒太(30=帝拳)も、実力がそのまま反映されない現実を改めて感じたと明かした。

 高藤君の試合を見ていて、これは肝が据わっている選手だなと最初は思いました。相手と距離を取るたびに呼吸を入れたり、自分の間を取ろうとしている瞬間があったので。でも、やっぱり普段とは違ったんだと思います。

 準々決勝では有効を取って、相手に指導がいって、そこで隙が生まれたのでしょうか。その後の3位決定戦では確実に勝ちにいったじゃないですか。最後は指導が来そうなくらい試合をコントロールしても。ソチ五輪でフィギュアスケートの浅田真央ちゃんがSPがダメで、フリーが良かったのと同じ感じですね。1回負けると開き直って、忠実にプランどおりに、欲を出さずにできる。でも、絶対に金メダルを獲るんだという気持ちがあると、実行すること自体が難しくなっちゃうんですよ。そんな流れにのまれてしまったのかなと。

 僕もロンドン五輪では実力を全然発揮できなかった。決勝では世界選手権でボコボコにした相手(ファルカン=ブラジル)と14―13の接戦。準決勝の相手(アトエフ=ウズベキスタン)も世界選手権ではレフェリーストップで勝っているのに僅差の判定(13―12)だった。単純に言うと、五輪になると練習の時点からすでに力んでしまう。日本人はメダルを獲らなきゃという意識が強すぎるから。それはオーバーワークにもつながるし、試合でもメンタルが崩れやすくなる。このまま1ポイント差を守れば勝ちだとか先に結果に考えがいって、内容が抜けているから足をすくわれやすくなる。いつもの自分以上のことをしようと力む。でも、五輪はそれだけ特別なんです。柔道の世界選手権やグランドスラムでいくら優勝しても号外は出ない。選手団の服装も用意されないし、周りがつくる雰囲気も全く違いますね。

 高藤君はルール変更を乗り越えた選手だと聞きました。肩車が得意だったのに相手の足を直接取ることが国際的に禁止されて、それに対応したオリジナルの肩車を編み出したとか。実はボクシングも07年から10年にかけてルールが異常に変わった時期があって、対応に迫られました。ジャブでも何でも一つ当たればポイントが入る「タッチゲーム」と呼ばれた方式に変更され、その次はパンチをガードしていればポイントにならない「ブロックゲーム」に、そこからスコアが最後まで分からないロンドン五輪のルールになったんです。

 「タッチゲーム」の頃は僕もフットワークを使ってポンポン打っていました。ロンドン五輪の方式に変わったらブロックを使いながら手数を増やしたりとか、アジャストしてましたね。結果的には最後のルール変更が追い風になったんです。実際のスコアが見えないから相手は逃げられず、最後まで僕と打ち合わなきゃいけない。そこでスタミナが減ったところで、僕が根性で勝つみたいなところがありました。

 ただ、ルールに自分のボクシングを無理やりアジャストさせようとすると崩れてしまう。「タッチゲーム」がうまい選手は「ブロックゲーム」になっても自分の長所を出せばいいのに、ルールに適応しようとしすぎて調子を崩した選手が何人もいました。ルールが変わっても軸は変えずにアジャストさせる。その意味でも高藤君はうまく適応してきたんでしょうね。足が直接取れなくなったからと言って、方向性を変えなかったのは、自分の長所をよく分かっているということ。再びルール改正があっても適応できるだろうし、今後がある選手だと思うので、続けてほしいですね。

 ただし、柔道はモチベーションを保つのが大変だと思います。世界ランキングのために国際大会に出続けなければいけないし4年間の疲弊は半端じゃないでしょう。今の悔しさをどれだけ保てるか。僕も、ロンドンからリオを目指せと言われていたら想像できなかった。でも、リオから東京なら想像できます。借りを返すには最高の舞台じゃないですか。この負けがドラマの始まりになるかもしれません。

 今回は外から見ていますが、五輪はやっぱり面白いですね。世界選手権やグランドスラムで優勝している選手も、一発勝負では予想どおりにいかないですから。20年東京五輪出場ですか?ボクシングは今回からプロの参加が全面解禁になりましたが、テレビで見ていると、うらやましいというのとは違うけど、いいなと思わされる。4年後は僕のボクシング人生も集大成的な年になっていると思うし、あの場で集大成というのも悪くはないな、と思わせてくれる。プロにもラスベガスでの世界タイトルマッチなど華やかな舞台があるけれど、あくまでも私的行事であって、日本や世界が注目する国民的行事じゃない。そういうものに国を代表して参加できる意味は大きいんだなと改めて感じています。

 ◆村田 諒太(むらた・りょうた)1986年(昭61)1月12日、奈良県奈良市生まれの30歳。南京都高―東洋大。11年世界選手権ミドル級銀メダル。08年北京五輪はアジア予選敗退も、12年ロンドン五輪同級では64年東京五輪バンタム級の桜井孝雄以来48年ぶりとなる金メダルを獲得。13年8月にプロデビューし11戦全勝(8KO)。身長1メートル82。帝拳ジム所属。

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2016年8月8日のニュース