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「裏切り者」と呼ばれる美人アスリート リオ五輪で安全確保できるのか

[ 2016年7月13日 09:00 ]

“美女ジャンパー”ダリヤ・クリシナ

 “美女ジャンパー”として人気がある陸上女子走り幅跳びのダリヤ・クリシナ(25)はロシア出身だが、米国を拠点にしてすでに3年が経った。これが運命を分ける。なぜなら現時点において、国際陸連がその管轄下にある大会に出場を認めているのはクリシナを含めて2人だけ。80人以上の選手がロシアという枠組みから外れて出場できる「中立アスリート」という資格を申請しているが、「ロシア国外に拠点がある」という条件を簡単にクリアできる選手はなかなかいない。

 すべては国家ぐるみと認定された一連の“広域ドーピング”がもたらした負の側面。「私は1カ月前に米国人のトレーナーの下で練習を始めました、などという人間ではない。だから私を責めるのは間違っている」とクリシナは語ったが、ロシア国内では彼女を「裏切り者」と呼ぶようになった。

 中立アスリートとして出場を許されているもう1人は、ロシアの組織的ドーピングの内幕を暴露した中距離ランナーのユリア・ステパノワ(30)だが、彼女は「密告者」というレッテルを貼られてしまった。正義を貫いての勇気ある行動というのが世界的な見方だが、母国ではそういうわけにはいかないようだ。

 この状況をふまえ、国際オリンピック委員会(IOC)はロシアの陸上選手に対して五輪への扉を閉ざした。ステパノワは脚を故障しているので、もしもうひとつ五輪に「枠」があるとすれば、イタリアを拠点にしている女子棒高跳びのアリョーナ・ルトコフスカヤ(20)とも言われているがどうなるのかは不透明だ。

 さて問題をひとつ提起したい。このままクリシナらがリオデジャネイロ市内の選手村に入った場合、他の競技のロシア代表選手とコーチ、スタッフとの間に何かしら衝突が起きないだろうか?なにしろロシア国内では「裏切り者」なのだ。だから身辺の警備は万全にする必要がある。

 ところが兵士と警官を併せて8万5000人という史上最大規模の警備陣にはそんな余裕などない。世界有数の犯罪多発地域。ロンドン五輪の警備陣が持っていなかったロケット砲までリオデジャネイロ市内に配置される兵士は常備している。すでにスペインとオーストラリアのセーリングの選手は路上でピストルを持った強盗の被害に遭い、しかも誰も助けてくれなかった状況に言葉を失っている。

 さらに警察はと言えば給与の未払いに加え、予算のカットでコピー紙、トイレットペーパーなどは民間からの寄付で賄っている状態。空港で「地獄へようこそ」というバナーを持って抗議をしていたのも警察官だ。本来ならばきめ細やかな警備態勢が必要なはずだが、クリシュナは「到底そんなものはない」と覚悟する必要があるだろう。

 ドーピング問題はロシアだけに限らない。スペインではエチオピアなどの選手に薬物を提供していたトレーナーが逮捕された。集団ドーピングで騒がれたケニアでも薬物に関与したトレーナーの行方を捜査当局が追っている。今回の五輪はセーリングやボート会場の水質汚染が話題になっているが、目に見えない部分の“汚染度”も深刻。現地を視察したIOCのナワル・エル・ムータワキル理事(54)は「世界を迎え入れる準備は整った。これ以上、ふさわしい景観は想像できない」と語ったが、本当にそうだろうか?

 男子ゴルフの多くのトップ・プレイヤーが辞退の理由に挙げたジカ熱問題を含め、今回の五輪には目に見える美しい景観を根底からぶち壊す「無形の敵」があまりにも多い。五輪開幕はもう目前。1人でも多くの選手が夢の舞台に無事にたどり着けることを祈っている。(高柳 昌弥)

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2016年7月13日のニュース