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女カレリンだ!吉田沙保里3連覇で12度目世界一

[ 2012年8月10日 06:00 ]

女子55キロ級で優勝、父栄勝コーチ(上)を肩車し、栄和人監督(左)とともに喜ぶ吉田沙保里

ロンドン五輪レスリング

 女子55キロ級決勝で吉田沙保里(29=ALSOK)がトーニャ・バービーク(34=カナダ)を下し、個人種目では柔道の野村忠宏、前日の63キロ級・伊調馨(28=ALSOK)に続く日本人3人目となる五輪3連覇を達成した。日本選手団旗手の金メダルは00年シドニーの男子柔道の井上康生以来、3大会ぶり。これで吉田は世界選手権、五輪を合わせ12度目の頂点で、「霊長類最強の男」と呼ばれたアレクサンドル・カレリン氏(44=ロシア)に並ぶ偉業も達成した。

 2度目の失敗は許せない。それが女王の掟(おきて)だ。決勝の相手は、昨年9月の世界選手権決勝で最終ピリオドまで死闘を繰り広げたバービーク。打倒・女王に燃えるベテランを、吉田が返り討ちにしたところが、12度目の世界一のゴール。女王陛下の国・英国で最後にとどろいたのは、やはりレスリング界の女王の雄叫びだった。

 お目覚めは、準決勝だ。5月、国別団体戦W杯で苦杯を喫したロシアの新鋭、ジョロボワ戦。第1ピリオド30秒で、タックルが相手右脚を捉えると、そのまま左に回って背後を取った。第2ピリオドは相手タックルをつぶし、ニアフォールで2点。右腕を何度も突き上げた吉田は、初戦、2回戦の“安全運転”から一気にギアを切り替えた。

 昨年のバービーク戦はタックルを返され、ポイントを奪われる大苦戦。以降、栄和人監督(52)が「長いトンネルに入った」と評する不振に陥った。12月の全日本選手権ではジュニアの村田夏南子に1ピリオドを奪われた。相手に返される恐怖で失った、間合いとタイミング。体力的な衰えを指摘する声まで上がった。5月のW杯ではジョロボワに敗れ、4年ぶりの黒星の屈辱も味わった。

 原因は昨秋から取り組んだ近距離でのタックル習得にあった。もともと55キロ級では小さな吉田にとって、相手のパワーをまともに受ける近距離は不利な体勢。それを最初に指摘したのは、吉田にレスリングを教えた父・栄勝(えいかつ)さん(60)だった。「基本に戻って、飛び込め」。失いかけた勇気と自信と誇り。それを取り戻すために原点回帰し、ロンドンに乗り込んだ。

 日本選手団の旗手就任の打診があったのは、トンネルのど真ん中にいたときだ。辞退を勧める声に、吉田はこう答えたという。「全てを背負って、自分が頑張る」。結団式、開会式。全ての公式行事をこなすため、チームメートから離れ、先月25日にロンドン入りした。全てを背負った上で、獲得した金メダルの価値は高い。カレリン氏に並ぶ12度目の頂点すら、通過点。来月下旬にカナダで行われる女子世界選手権出場の意向も示す。トンネルの出口には、レスリング界の生きた伝説となる運命が待っている。

 ◆吉田 沙保里(よしだ・さおり)1982年(昭57)10月5日生まれ、三重県出身の29歳。全日本王者の父・栄勝さんの影響でレスリングを始め、ジュニア時代から全国タイトルを総なめ。世界選手権は02年から9連覇。01年からの連勝は08年のW杯で敗れるまで119を記録。1メートル56。

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