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台風にまつわるエピソードにお客さん大爆笑

[ 2015年7月1日 05:30 ]

 「天候悪化とかの開催中止決定は誰が決めるん?」。先日、サテライト阪神で受けたお客さんのこの何気ない質問から始まった。「施行者、競技会、選手代表らが慎重に協議した結果」と真面目アンサー。しかしこれで終わらないのが俺。こんな流れで台風にまつわるエピソードを二つしたところ、俺を取り囲んでるお客さんは大爆笑。「みんなに教えたらんと損やで」と言われたもののこれって損得なんか? 一つは自虐ネタやし…まっええか…。

 ある特別競輪の二次予選があった日(なにかしら問題になると厄介なんで…)。大型台風がまともに上陸。一億%中止と思ってるのになんと開催側は「根性で走ってくれっち」。事が事だけに参加選手も控室に集められ全員で協議。CSが普及する前の時代、決勝戦は民放で放映。あきらかにその“権利枠”に執着だ。「アホぬかせ!」「そうですたい!」「タコ!」「走る側の身の危険は無視だがや!」「んだんだ!」。選手の罵声の雨アラレ攻撃を浴び、開催側はいったん席を外した。しばらくして戻りこう言った。「本日出走の選手は、賞金別途で超危険手当て10万円を支給し・よ・う・か・な」。とたんに控室が静まり返った。そしてちょっと裏返ったような声で1人の選手が叫んだ。「俺らは競輪に命懸けてるっぺ!」。右に習えと続く。「バンクで死ねたら本望じゃけ!」「ほやけんね!」「んだんだ!」。あっという間に控室全体が「うぉぉぉぉ~!」という歓喜の雄たけび声に包まれたことは言うまでもない。発走機の上でもコケてしまいそうな暴風雨。条件同じでも俺の二次予選は9着大敗。俺は思ったね「競輪選手の命の値段…安くね?」って。

 ボクが生まれ育った家は家賃2千円のオンボロ市営住宅の長屋。風呂はないけど一応2階建て。あの台風がやって来た。ボクはいつものように数本のバスタオルで2階の木製の窓から侵入する雨と戦っていた。「バキバキ……バーン!」。ボクには何が起こったのか分からなかったが「もうええどぉ~。大事なもんだけ持って真向かいの家に集合」とオトンが叫んだことで理解できた。暗闇の滝行?見上げるとあるはずの6世帯ひとくくりの長屋の屋根がない。オトンは向かいの家から自宅を眺め「これで2階にデッカイ風呂でけたやんけ」と豪快に笑いとばした。オカンが持ってきたのはもちろん金目の物。なんとオトンは日本酒の一升瓶と愛犬であった(笑い)。あくる日は台風一過で雲ひとつない晴天。幼かったボクは数十メートル先に飛ばされていた屋根の上に乗って「これで船作ろうや」と、はしゃいでいた。恐るべしDNAである。それから数年後、オトンは?歳で死んだ。「このDNAだけは勘弁してや…」と、そんなこと思いながら“俺”は夜空を見上げた。(齊藤哲也、元競輪選手)

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