藤井正弘の血統トピック

「天覧競馬」ならではの穴候補はマイネルスターリー

[ 2012年10月24日 06:00 ]

 近代競馬150周年記念と銘打って行われる今回の天皇賞には、7年ぶりに天皇皇后両陛下が来場される。天皇賞を俗に「盾」と呼ぶのは、優勝馬のオーナーに贈られる御紋付きの盾に由来するのだが、現在、皇室からの下賜が行われているプロフェッショナル限定競技は、競馬以外では国技を名乗る相撲だけ。そもそも近代スポーツ史における「天皇杯」のルーツは1880年、馬事全般に造詣の深かった明治天皇の下賜によって日本レース・クラブが主催した「MIKADOS’ VASE」にあるとされる。皇室と競馬の関係には、近代競馬以前からの長い歴史が存在するのである。

 第73代菊花賞馬ゴールドシップの牝系を8代さかのぼると、星旗という馬にたどりつく。この星旗は、1931年に旧宮内省直轄の下総御料牧場が米国から輸入したサラブレッド。同時期に御料牧場が導入した米国産牝馬には、全て星条旗にちなんだ「星」の1字が冠せられ、繁殖牝馬として日本の馬産の基礎を築いた。同牧場は60年代に生産事業から撤退したが、以後もテンポイント(星若系)、トウカイテイオー(星友系)、サニーブライアン(星谷系)といったスターホースが周期的に“御料牝系”の存在感をアピールしている。

 ちなみにゴールドシップの母の父メジロマックイーンは、3代母の父ボストニアンの母の父が御料牧場が英国から輸入したダイオライトで、4代母のトモエの父月友が前記トウカイテイオーの7代母でもある星友の子。皇室がこの国のサラブレッド生産における最も強力なパトロンだった痕跡は、最新のクラシックホースの血統表からも見つけることができるのである。

 今回の天皇賞のエントリーで唯一、血統に皇室との、よすがをとどめるのはマイネルスターリー。同馬の10代母クレイグダーロッチは1926年に当時の新冠御料牧場が英国から輸入した繁殖牝馬で、6代母コロナの父として前出の月友の名もある。繰り上がって出走可能となったように運もある。「天覧競馬」ならではの穴候補として頭の片隅に入れておきたい。(サラブレッド血統センター)

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