上村師、角居師のDNA「働きやすく風通しのいい環境を」

[ 2019年3月6日 05:30 ]

上村洋行調教師
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 競馬界の3月は“新風”の季節。東西で7人の調教師が1日付で新規開業している。栗東では騎手時代にスリープレスナイトで08年スプリンターズSを勝つなど活躍した上村洋行師(45)が開業。目の病気で騎手引退危機を乗り越えた苦労人は、名門・角居勝彦厩舎で学んだメソッドを糧に今度はトレーナーとして大舞台を目指す。

 同じ競馬でも景色は違って見えた。上村師はジョッキーから調教師へ転身。その心持ちをこう語った。

 「ジョッキーの時は乗ることだけに集中すればよかった。今は馬主さんや厩舎にいない馬のことなど、いろいろと考えることが多い。ジョッキーのデビューの時とは全然違いますね」

 92年に騎手デビュー。同年に40勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を受賞したが、その後は順風満帆とはいかなかった。03年に「黄斑上ぶどう膜炎」という目の病気を発症。飛蚊(ひぶん)症と呼ばれる症状は、騎手には致命的ともいえるもの。視界が白く濁り視力が落ちていく日々に引退を考えたこともあったが、4度の手術を経て克服。08年スプリンターズSをスリープレスナイトで勝ち17年目で悲願のG1制覇を果たした。重賞10勝を挙げ、14年2月末に引退。「騎手を辞めるか悩んで決断するまでは早かったけど、未練はあった。でも、気力があるうちに次のステップに挑戦したかった」。池添兼厩舎で調教助手となり、5回目の調教師試験の受験で合格した。

 技術調教師としての1年間は、角居厩舎をベースに池江厩舎でも研さんを積んだ。「効率が良くて、スタッフの一人一人が高い意識を持って取り組んでいるなと感じました」。常にトップを走る厩舎に触れ、多くのことを学んだ。

 開業が迫る年明けからは時間の流れも早かった。「1月、2月は凄く忙しかった。2月はもうアッという間に過ぎました」。開業初戦は3日の阪神3R。ブラッディムーンは外から脚を伸ばして3着だった。現在の管理馬は20頭。昨年関屋記念3着のエイシンティンクルは重賞Vを意識できる馬だろう。

 「不安も多いけど、やりがいもある仕事だと思っています。角居厩舎のように個人個人が意識を持って、働きやすく風通しのいい環境をつくっていきたい」

 トレーナー自身も時間がある限りは馬に乗っていくという。長く苦しいトンネルを抜け出した自身の経験に、名門厩舎のDNAをミックスさせ、高みを目指していく。 

 ◆上村 洋行(うえむら・ひろゆき)1973年(昭48)10月23日生まれ、滋賀県出身の45歳。92年に栗東・柳田次男厩舎から騎手デビュー。ルーキーイヤーに40勝を挙げ、JRA賞最多勝利新人騎手。同年京王杯AHのトシグリーンで重賞初制覇。08年スプリンターズSをスリープレスナイトで制しG1初V。JRA通算7880戦570勝(重賞10勝)。サイレンススズカにデビューから6戦騎乗し、97年プリンシパルS1着、ダービー9着。14年に騎手引退。18年度の調教師試験に合格し、3月1日開業。

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2019年3月6日のニュース