【安田記念】イスラボニータ100点!円熟のマイル界の玉三郎

[ 2017年5月31日 05:30 ]

歌舞伎の女形をイメージさせる丸みに鈴木康弘氏が唯一満点をつけたイスラボニータの立ち姿
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 春競馬のとう尾を飾る大舞台はマイル界の玉三郎が主演だ。鈴木康弘元調教師がG1出走馬の馬体を診断する「達眼」。第67回安田記念(6月4日、東京)では前哨戦マイラーズCを快勝したイスラボニータに唯一の満点を付けた。達眼が捉えたのは輪郭の変化。歌舞伎の女形をイメージさせる丸みは6歳春の円熟を伝えている。

 歌舞伎界を代表する女形の坂東玉三郎(5代目)が講演でこんな発言をしています。「役者の価値は化粧前をひと目見れば分かるものです」。競馬に置き換えれば、サラブレッドの価値は馬房前の身だしなみをひと目見れば…となります。オークスのソウルスターリングとダービーのレイデオロ。手入れの行き届いた美しい体は馬房前で確かな価値を伝えていました。

 身だしなみの美しさを一文字で示せば「躾」(しつけ)。よくしつけられた馬は鞍上の手綱に従って無駄な動きをしません。ルメールの指示を守り通したレース運びの先に、距離延長を克服したオークス、2番手に進出した上で完璧に折り合ったダービーの栄冠が待っていました。

 そのルメールを背に今週のG1舞台に立つイスラボニータ。こちらも相変わらず美しい。品格高い漆黒の馬です。歌舞伎に置き換えれば、武家の礼装、黒地の打ち掛けを羽織って舞台に立つ女形のように…。でも、昨年とは印象が異なる。すっきりとした流線形の輪郭が丸みを帯びて、ふんわりとしたラインを描いています。首差しと腹周りのボリュームが増しているのです。昨年以上に重厚感を伴った造形美。こういう流線形の馬体はあまり変化しないものですが、明らかに丸くなりました。

 6歳春を迎えて変化した造形。2つの理由が推測できます。張っていない顎。食欲はさほど旺盛ではないはず。そのせいで体に厚みを増すのに長い時間が必要だった。これが1つ目の推測。2つ目は顔つきにあります。3〜5歳時の写真を見直すと、いつでも耳を真正面に向けて、鋭い目をしていました。ところが、今回は初めて耳を少し左右に開き、穏やかな目をしています。集中した顔から遊びのある顔つきへ。緊張感の欠如とも受け取れますが、ハミは気を抜かずにきちっと取っている。遊びのある顔は余裕や自信の表れでしょう。心身一如。精神的なゆとりが馬体に丸みを与えていると推測できます。

 「役者に大切なのは丸み」。坂東玉三郎は前述の講演でこう語っています。「ぎすぎすした角張った体の使い方をしないように稽古を積みながら形を整えて…」と。競馬に置き換えれば、サラブレッドに大切なのは稽古を積みながら形を整えた、丸みのある姿です。(NHK解説者)

 ◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日、東京生まれの73歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70〜72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許を取得し、東京競馬場で開業。78年の開場とともに美浦へ。93〜03年には日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。

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2017年5月31日のニュース