【凱旋門賞】鈴木康弘氏分析「マカヒキ惨敗は世界の壁ではない」

[ 2016年10月4日 05:30 ]

10月2日、アイルランドのファウンド(手前)が優勝したフランスの凱旋門賞
Photo By AP=共同

 日本ホースマンの悲願はまたしても欧州の厚い壁に阻まれた。凱旋門賞(仏シャンティイ、日本時間2日深夜)で日本馬として延べ20頭目の挑戦となったダービー馬マカヒキ(牡3=友道)はまさかの14着。初の海外馬券発売レースで1番人気に支持した日本のファンを裏切る大敗に終わった。その敗因と日本馬雪辱の可能性を元日本調教師会会長、鈴木康弘氏が分析した。

 3角の下り坂から4角の上り坂を回ったところでマカヒキの脚色が鈍り始めました。鞍上・ルメールが仕掛けても反応しない。頂点を極める直線600メートルの攻防にも参加できないまま先団馬群のはるか後ろに下がっていきました。道中、馬群の外で掛かったとはいえ、消耗するほどではなかった。パドックでは気負いの目立つポストポンドとは対照的に落ち着いていた。体も減ってなかった。力不足です。

 「オーバーペースになってしまって…」。レース後、ルメールのコメントが発表されましたが、1、2着馬はほぼ同じ位置取り(5~8番手)でした。シャンティイはロンシャンほどではないにせよ、馬力で手繰りながら進む重たい芝。日本の軽い芝のように追い込みは利かない。馬場の違いを熟知しているルメールはあの位置にいなければ勝てないことを知っていた。だから、位置を取りにいったのです。

 馬群の内に入ったところで結果は同じだったでしょう。オルフェーヴル(12、13年2着)のように欧州の馬場で勝ちにいける体力が備わっていなかった。ニエル賞は一列棒状でゆったり流れる攻め馬みたいな競馬。凱旋門賞の厳しさを改めて思い知らされました。

 ただし、この厳しさは世界の壁ではありません。馬場の違いに起因します。ゴルフコースでいえば、日本の芝はグリーン、欧州の芝はラフ。グリーンに適した日本馬の軽く跳ぶようなフォームがラフで苦しくなるのは当たり前です。逆に、ラフに合った欧州馬の手繰るようなフォームではグリーンの速さについていけない。私がシャンティイの厩舎で働いていた70年代前半から米国馬は凱旋門賞にほとんど参戦しなかった。馬場の違い、フォームの違いを知っていたからです。

 日本の悲願をかなえるにはどうすればいいか。時間をかけてラフに慣らすことです。馬は苦しさを和らげるため走路に合ったフォームに変わってきます。筋肉の付き方もラフ仕様に変化します。17年前、エルコンドルパサーは現地に長期滞在し、欧州馬のような馬体と走法で凱旋門賞2着。日本馬の優勝を夢から手を伸ばせば届く目標へ近づけた瞬間でした。夏の終わりに渡仏し、フォワ賞かニエル賞を使って本番というパターン化したレールの先に栄冠があるのか。17年前のフロンティア精神を再び奮い立たせてほしい。シャンティイの森は夏の間も過ごしやすいと付け加えておきます。(NHK解説者)

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2016年10月4日のニュース