【競輪緊急提言】京都向日町競輪場は蘇生する!日本一素晴らしい選手がいるから

[ 2016年3月31日 10:00 ]

向日町競輪場で行われたG3「国際自転車トラック競技支援競輪」

 3月31日、年度の締め日にあたる。その締めの月に、車券を山ほど買ってきた当方の目が点になる記事があった。

 その内容は、3月16日、一部で報じられた「京都向日町競輪場、4年後にも廃止へ」のニュース。ここ5年、完全に黒字へ転じている競輪場なのに素直に「ナンデ?」と感じた。

 施行者である京都府は、2011年「中長期的の存続は困難」とし、廃止の方針を表明したが、関係団体、選手会の努力が実り、近年はずっーと黒字。健全な経営となり、府の一般会計にも貢献している。売上も下げ止まり、今は明らかに回復傾向。「赤」は一切、出ていない。

 なのに、どうして蒸し返すように廃止論が再び出てきたのか。関係者の話によると、要は老朽化してきた施設、メーンスタンドを改修後、中長期的に黒字が続くかどうかの判断で府や事業検討委員会は厳しいと判断したため、再び今回の報道につながった。そして3月17日、京都府議会常任委員会で今後、売上のV字回復が見込めないため、早ければ4年後にも向日町競輪場を廃止する方針を示した。17年度からは車券窓口販売などを3年間、民間に委託し、その間に公営ギャンブル施設として存続させつつ、跡地の利活用を検討する方針を打ち出した。ただ、今、決まっていることは主な車券業務を民間に委託することだけである。

 ここからは「現場の声」をリアルに書いていく。

 3月16日、廃止報道の一報が流れ、気になってきたので懇意にしている京都向日町・岸本勇雄所長にショートメールを打った。

 「きょうの報道、ホンマですか」。しばらくすると岸本所長から電話連絡があった。

 「ご心配をおかけして誠に申し訳ございません。まだまだ頑張っていきます。今後とも、よろしくお願いします」

 当方は競輪との付き合いが今年で22年目。全国各地いろんな所長と出会ってきたが、これほど競輪に対して情熱のある「長」と出会ったのは初めてである。

 13年12月に起こった選手会騒動、それから事を起こした選手に処分が下り、それ以降、岸本所長は関係各位に対して、いろいろと尽力し、選手とも本音で話し合い、ファン、現場目線で、とにかく向日町競輪場のPR役に徹した。早朝から場へ足を運び、地元選手の朝練習をそっと見守るほどの人格者である。開催期間中は毎日、記者席にも顔を出し「よろしくお願いします」。トップの姿勢がマスコミや関係各所、選手会にも自然と伝わっていくのは当然である。岸本さんが所長になってからは経営基盤が、ぐらついていた競輪場の経営が蘇生したと言っても過言ではない。だから今回の蒸し返してきた件については、黙っているわけにはいかなかった。

 3月16日の一報を受けてスポニチ大阪レース紙面で「廃止論否定」の記事を掲載する連絡を受け、岸本所長のコメントを依頼した。しばらくすると、ファクスで丁寧な文面が届いた。

 「今回の記事タイトル(向日町競輪4年後にも廃止へ)は本当に残念です」

 そして以下は岸本の思いをお伝えさせていただきます、と記していた。

 「これまで全国の多くのお客様、施行者、選手、関係機関の皆様のご支援、ご協力を賜り、黒字経営を続けさせていただいており、皆様方に心から感謝申し上げます。現場といたしましては、京都には素晴らしい選手が多数おられますので今後とも皆様に愛される競輪場となるよう(また廃止という方向にならないよう)なお一層、頑張って参りたいと存じますので、引き続きご支援賜りますよう、どうぞよろしくお願いします 京都府自転車競技事務所長 岸本勇雄」

 文面を見て改めて岸本所長に電話すると「努力次第で、まだまだやれます」と語気を強めた。気持ちが十分、伝わってきた。岸本所長は、きょう3月31日、定年退職を迎える。最後の最後までファン、現場、選手目線で接してきた。だから向日町競輪3月の普通開催で地元京都の四宮哲郎(42=A級1班・71期)が決勝戦で絶体絶命の9番手から執念で突っ込み、優勝を飾った。レース後の四宮選手のコメントが光っていた。

 「お世話になった岸本所長の最後の開催でしたから優勝したかった」

 この言葉で京都選手会と施行者との絆、思いが分かっていただけると思う。これだけ「現場」は頑張ろうと戦っている。ただ、本庁の見解が…。この温度差の違いはいかがなものか。

 現場は存続に向けて必至である。なのに本庁は少しドライ過ぎないか。いいアイデアをひとつでも出したのか。管理だけすればいい問題ではない。府の財政に貢献している種目の命を簡単に奪ってはならぬ。選手たちは命をかけて、戦っている。これほど素晴らしいギャンブル・スポーツは、他にはない。

 JKA関係者にも取材すると「(今回の報道は)まったく寝耳に水」。ホウレンソウ(報告、連絡、相談)が大事な機関が関係団体に対して何の連絡もせず、一方的に「廃止論」を展開するのは明らかに「スジ」が通っていない。

 京都府、事業検討委員会は管理のプロかもしれないが、“経営のプロフェッショナル”ではない。これは、はっきり言い切れる。何事もやめる、切ることは簡単。しかし蘇生させ、歴史や伝統を続けていくことも大事な仕事である。大衆の楽しみを奪っていいのか。

 近畿地区では、2002年、西宮と甲子園競輪が廃止となった。当時、当方も現場で取材していたが、最後の日、あいさつに来ていた知事に対し、ファンが腹の底から罵声を浴びせていた。

 「帰れっ」。泣いている選手、ファンもいる。これ以上、近畿の競輪場の灯を消してはいけない。

 とにかく選手は業界の宝である。そして京都には、日本一、素晴らしい選手がいる。府の見解として事業収益を守ることは第一であることは重々、理解しているが文化を守る、育てていくことも行政の仕事、任務ではないか。いま一度、本庁と現場が真剣に話し合い、選手、ファン目線に立って将来に向けて蘇生、業界を発展させていく道を探ってほしい。

 施設が老朽化しているならば今の規模にあった形、シュリンクした施設でリニューアルする手もある。女性にも喜んでもらえる新しい施設として生まれ変わるチャンスだと決断すれば、いいではないか。そして、2020年の東京五輪に向けて「競輪」をアピールする絶好の機会。ルールを分かりやすく説明するコーナーを常設することも必須であろう。声を大にしていいたい。

 「諦めるな」

 次回の競輪緊急提言では今回の一報を受けて、日本一、素晴らしい選手の本音を伝えていく。(スポニチ東京レース部長・古川 文夫)

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