【KERINグランプリ】伊集院静氏が語る競輪の魅力「それは人の情念」

[ 2015年12月26日 10:30 ]

KEIRINグランプリ2015記者会見に臨んだ9選手(左から)村上、平原、山崎、浅井、武田、稲垣、神山、新田、園田

 東都に1億円バトルのジャンが鳴る。「KERINグランプリ2015」は30日、東京オーヴァル京王閣競輪場で行われる。GPは1985年に創設され、今年で30年目。そのすべての大一番を見届けてきた直木賞作家・伊集院静氏が素晴らしい人間ドラマの歴史を振り返りつつ、今年の見どころについても熱く綴った。

 “競輪グランプリ”は私にとって、その誕生からして、まさに夢のレースだった。この企画を耳にした時から、そんなレースが実現したら、どんなに楽しいかと想像したものだ。

 1985年の12月30日に、第一回の競輪グランプリが立川競輪場で開催された。地元勢の清嶋彰一、山口健治、尾崎雅彦に対して、九州勢の中野浩一、井上茂徳、佐々木昭彦が、どう戦いを挑むかが焦点だった。新鋭の滝沢正光もいたし、ベテラン高橋健二、四国の伊藤豊明。普段ならとっくに競輪場に人影もない夕暮れに照明が灯された時は胸が高揚した。

 たしか中野浩一が勝利し、2着が井上茂徳で(1)―(5)の枠単が1700円の配当で、普段より配当が高いのは全国のファンが、それぞれ贔屓(ひいき)の選手から車券を買っているからだと、あとから聞かされた。

 “競輪グランプリ”は一年の競輪の締めくくる「まさに祭り」なのである。思えば毎年、数々の名レースが繰り広げられた。

 吉岡稔真の鮮やかな捲りが決まった時など、競輪新時代が到来したのだと思ったし、井上茂徳、滝沢正光の見事な復帰勝利にはファンが総立ちになったのを覚えている。小兵・児玉広志の涙の優勝も感動した。

 中野浩一、井上茂徳、滝沢正光、坂本勉、鈴木誠、小橋正義、山田裕仁、山口幸二、太田真一、伏見俊昭、小野俊之、加藤慎平、有坂直樹、井上昌己、海老根恵太、村上博幸、村上義弘、金子貴志、武田豊樹…と歴代優勝者は、その時代、その一年のやはりヒーローであった。

 競輪グランプリが終わって、競輪ファンは正月を迎える。たとえ車券が的中しなくとも、新しい年は、また初戦から頑張るんだぞ、と選手に新しい年の夢を託してきた。

 カラフル光線のなかの9人の選手は全員が光り輝いて見える。まさに夢のレースである。さまざまな公営ギャンブルがあるなかで、私が競輪競走をずっと応援し、ともに歩んで来たのは、競輪にしかない素晴らしい魅力があったからである。それは人の情念である。選手がラインをこしられるのも選手同士の情念、情愛がそうさせるし、ファンがレースを推理したり、観ていて感動するのも、ファン一人一人と選手の気持ちがどこかで通じている情念があるからである。こんな人間の匂いがする競技ギャンブルは他にはないのだ。

 そして何よりバンクの中で風を切る音、美しい走行フォームを見ていると、それだけで人生の華麗な楽しみと出逢ったことに感謝せざるを得ない。

 今年は京王閣競輪場の開催である。京王閣での思い出のレースがある。それは2012年の村上義弘の初優勝である。気力、辛抱が実を結んだレースだった。

 今年の注目は今、最強のラインと呼ばれる武田豊樹と平原康多の一騎打ちである。稲垣裕之と村上義弘の京都勢の走りも楽しみだ。新田祐大の爆発的な捲りに山崎芳仁が続けば、どうなるか。去年、勝機を逃した浅井康太はどう走るか。園田匠の差し足が見られるか。そして出場回数最高の神山雄一郎が勝てば伝説となるだろう。

 ほどなく始まるレースのことを考えると、夜が長い師走である。(作家) 

 ▼KEIRINグランプリ 毎年、12月30日(※1990年のみ12月29日)に開催される競輪界暮れの大一番、一発勝負。出場9選手は、その年のG1優勝者および獲得賞金額の上位選手。開催地は持ち回りで第1回は1985年立川競輪場。約4万人の観衆を集めた。最多優勝者は本紙評論家・井上茂徳、山田裕仁の3V。第1回の優勝賞金は1000万円だったが、昨年は1億170万円(副賞込み)と約10倍にまでなっている。

 ◆伊集院 静(いじゅういん・しずか)1950年(昭25)2月9日生まれの65歳。山口県防府市出身。81年、作家デビュー。92年「受け月」で直木賞、94年「機関車先生」で柴田錬三郎賞を受賞した。近年では「大人の流儀」シリーズが累計で130万部を突破している。シリーズ最新刊、ベストセラーの第5弾エッセイ「追いかけるな 大人の流儀5」(講談社)が、ただ今、好評発売中。

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