89年年度代表馬 31歳イナリワン、1歳馬相手に面倒見の良さ発揮

[ 2015年7月28日 09:45 ]

トマムの豊かな自然に囲まれて過ごすイナリワン

 懐かしの名馬と訪ねる――1989年の年度代表馬イナリワン。オグリキャップやスーパークリークと死闘を演じ、同年有馬記念などG1・3勝を挙げた馬の現在は?

 新千歳空港から1時間30分、トマムICを出てすぐの「あるぷすペンション」で、イナリワンは余生を過ごしている。北海道を代表する観光地のトマムリゾートまでは車で約5分だが、周囲を緑に囲まれているせいか、そんなことを忘れさせるぐらいにゆったりと時間が流れている。

 「これだけ活躍した馬ですが、いろいろあってあちこち振り回されたみたいで…。北海道だけでも、うちが4カ所目になるそうです。人間で言えば100歳ぐらい。でも、本当に元気ですね。友達に“うちにイナリワンがいる”と言ったら驚かれますよ(笑い)」

 そう話すのは、ペンションの馬係を務める本田光司さん(43)。若さを物語るこんなエピソードがある。「去年だったかな、少しだけ乗ってみたんですよ。歩きはしっかりしているし、何より体が物凄く柔らかいんで驚きました。広いところに行けば、走りだそうとするぐらいでしたね」

 1人で引き手を持たせてもらったが、こちらをグイグイと引っ張る力強さに驚いた。馬体に目をやると、年の割には肉が落ちていない。歯は抜けたが、食欲はしっかりしているそうだ。「与えた分はしっかり食べますよ。うまくかめないので、麦やフスマ、ヘイキューブなどは水でふやかしてあげています」

 現役時は気性が悪かったと聞くが、年下の乗用馬と一緒に放牧すれば、面倒見の良さを発揮するとのこと。年を重ねて丸くなったのだろう。「1歳馬と一緒にいるとイナリワンも落ち着くみたいです。ここでは校長先生みたいな立場だし、生きやすい環境なのかもしれませんね」

 04年の種牡馬引退後は各地を転々として波乱万丈だったが、ようやく安住の地を見つけたイナリワン。その安らかな日々が1日でも長く続くことを願いたい。

 ◆イナリワン(牡31)1984年(昭59)5月7日生まれ。父ミルジョージ、母テイトヤシマ。生産者は北海道沙流郡門別町(現・日高町)の山本実儀氏。現役時代は25戦12勝(地方14戦9勝)。86年に大井でデビューして無傷の8連勝。一時は精彩を欠いたが、88年の東京大賞典で復活V。中央へ移籍した89年には天皇賞・春、宝塚記念、有馬記念のG13勝を挙げて年度代表馬に選ばれた。産駒は中央でシグナスヒーロー、地方でツキフクオーやイナリコンコルドが活躍した。

 ≪89年有馬記念VTR≫イブの有馬はあいにくの雨。下馬評は競馬ブームの立役者となった芦毛の怪物・オグリキャップと若き天才・武豊騎乗のスーパークリークの一騎打ちムードだったが、直線でオグリを捉えたスーパークリークに外から4番人気のイナリワンが強襲。写真判定の結果、約24センチ差でイナリワンに軍配が上がった。オグリは5着。

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