【凱旋門賞】29年目、名手・横典の流儀「凱旋門も未勝利戦も一緒」

[ 2014年9月30日 05:30 ]

凱旋門賞でもこのナンバーワンポーズが見たい(左は須貝師)

 日本屈指の名手・横山典弘がデビュー29年目の今年、ゴールドシップ(牡5=須貝)とのコンビで凱旋門賞(10月5日、仏ロンシャン)に初参戦する。同じく初舞台となる福永祐一、川田将雅が感動を隠さないのに対して、横山典はその気持ちを押し殺そうとしているのか、少なくとも表には見せない。その口ぶりはどこまでも淡々としていた。

 未勝利でもG1でも、同じような気持ちでレースに向かうのが横山典の流儀だ。「オーナーや関係者に感謝して、悔いのないように乗るのはどのレースも一緒。緊張感はあるけど、重圧はないよ。今の時季の未勝利なんて、それこそ勝ちたい気持ちが強くなるし、緊張もするからね」と話した上で、「今回も指名してもらえてありがたいと思っている。ゴールドシップにはいいタイミングで乗せてもらえたし、運も良かった」と感謝した。

 ロンシャン競馬場では初騎乗になる。福永と川田は渡仏して、9月10日にロンシャンで騎乗したが、横山典はそうしなかった。「内ラチ沿いを回ればゴールには着くんでしょ(笑い)。何回もテレビで見ているし、豊(武豊)に乗り方を聞きますよ」と、どこまでも気負いはない。

 前走・札幌記念の返し馬で印象的なシーンがあった。宝塚記念では馬場入りから時間を置かずに走りだしたゴールドシップだが、札幌記念では鞍上の意志を酌んで、1角の方向へ歩くことができたのだ。「返し馬でコンタクトを取れるかどうかが、あの馬との一番の見せどころというか、自分が楽しむところだと思っている。そこで一体になれるかどうかは大きな課題だったけど、(札幌記念では)良くなると思っていたよ。(宝塚記念前の)攻めでもそうだったけど、初めてより2回目の方が人も馬もおっかなびっくりの感じが薄れる。競馬でも意志の疎通ができた感じはするよ」

 凱旋門賞の本馬場入場では、前の馬の後ろを常歩(なみあし)で進むことが求められる。もう不安はないのだろうか?「それはまだどうなるか分からないね。型にはめられない馬だし、馬の気持ちを尊重しながら、8割は聞いて、2割は聞いてもらってという感じだから」。

 ゴールドシップはフランスの馬場が合うと言われてきた。しかし実際にまたがった感覚も含め、横山典は肯定も否定もしない。「ディープインパクトでも負けたし、メイショウサムソンも馬場が合うと言われながら結果は残せなかった。いろんなことが初物尽くしだから、やってみないと分からない」。

 1週前追い切りに騎乗するため、横山典は志願してフランスに渡った。それは“勝つため”ではなく“少しでもゴールドシップをいい状態で出走させるため”。「まずは無事に行って帰ってくることが一番」。横山典は同じセリフを何度も口にする。それは海外遠征の難しさ、怖さを痛感しているからだ。

 「自分がホクトベガの運命を変えてしまった」と苦い思い出を振り返る。自身初の海外遠征だった1997年の第2回ドバイワールドC。横山典が騎乗したホクトベガは4角で転倒し、後続馬が巻き込まれる形で追突。左前腕節部複雑骨折により予後不良と診断され、安楽死処分となった。

 「あの時、オーナーは遠征に前向きではなかったけど、デットーリとかと一緒に乗りたいという自分の気持ちもあって、行くことになったんだ。それでああいう結果になってしまったけど、オーナーや先生、(生産者の)酒井牧場の人は“お前が無事で良かった”と言ってくれたんだ」。多くを語ろうとはしないが、この一件が横山典の騎手人生に大きな影響を与えたことは間違いない。

 「ホクトベガ1頭だけじゃないけど、馬に命を助けてもらって、今こうしていられるんだから」。そんな思いはレース運びにも表れている。時にポツンと最後方から運び、“全力を出し尽くしていないのではないか?”と物議を醸す騎乗スタイル。「馬をケガさせたくないし、俺もケガはしたくない。ホント無事に帰って来るって大変なんだ」。馬の心と体から発せられる“声”を聞くことに、誰よりも注意を払っている。

 横山典には「凱旋門賞だから」という気負いはない。あくまで自然体で、騎手人生29年目に訪れた大一番に挑む。

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