【密着!池江厩舎】(5)池江師インタビュー“最強馬”の作り方

[ 2013年5月21日 06:00 ]

オルフェーヴルの手入れをする池江厩舎の森澤さん

 桜井聖良の池江厩舎連載も5回目。前回に引き続き独占インタビューの模様を紹介します!今回はどうしてこんなにも一線級のお馬さんが多いのか、その秘密を池江先生に聞いてきました! 

 ――厩舎に密着していると、スタッフ同士が常にコミュニケーションをとり、話し合いをして決めている姿をよく目にしましたが、かなり大事なことですよね!

 「そうですね、1人でできることは限られていますし、限界に至るまでの幅がとても狭いと思っています。例えばオルフェーヴル。レース2週間前の追い切りあたりまで担当の森澤君に乗ってもらっているのですが、オルフェーヴルが脱皮してもうひと段階上に行ってほしいということで、ステイゴールドをやっていた父を持ち、まだうちに来て2年ぐらいの山元君に、角馬場のフラットワークに乗ってもらうようにしました。それで新たな面が生まれてくれればいいなと。実際に彼がオルフェに乗っている時、オルフェーヴルが全く人間を意識していないというか、山元君が馬のじゃまをしていないんです。今まで好き放題だったオルフェが、ここ何日間で人間の指示をちょっとだけ聞くようになりました。こういうことができるのもチームワークが良くないと出来ません。“なんでお前が俺の馬に乗るんだ”とか、“お前の馬には乗りたくない”などにはならず互いを助け合う。2人でやっていた調教を3人でしたら、限界のラインは上がりますよね。1人でできることなんて本当に限られてますし、調教師だけで出来ることも限られているんですよ。みんな仲が良く助け合っている。それが今の成績につながっているんだと深く思います」

 ――厩舎スタッフ内から「俺ももっと走る馬をやりたい」など、そういった意見が出た際はどのように解決しているのでしょうか?

 「高校野球ではまじめに頑張ってきた野球部員を監督が最後の打席に立たします。しかし、プロ野球ではそういうことはないですよね?プロな分、成果を求められますし、まじめだけじゃだめ。打てるバッター、抑えられるピッチャーを入れるのがプロです。僕たちもアマチュアではないですから、技術の高いスタッフ、熱意のあるスタッフにそれなりのレベルの馬を担当してもらっています。馬の成績は担当者で影響される部分も多いので、そこは冷静に見ていますね。いい馬をやりたければ技術を上げてくださいねということですが、スタッフの中にはプレッシャーに弱い子もいます。そういう子も含め人もちゃんと育てていきたいので、まずは2、3年じっくり慣れてもらってからオープン馬を担当してもらうようにしています。自信のない子に自信をつけ、モチベーションの低い子を高くするのも私の仕事ですから」

 ――日頃から先生はスタッフのことをよく見てらっしゃるのですね。

 「各スタッフの良い部分、悪い部分は僕の独断になってしまうと思いますが、それぞれ見ているつもりです。馬が入る前からその馬の気性やタイプをいろいろと聞いているので“あ、この馬はあのスタッフとマッチするな”と考えたりしています。しかし逆に、この馬は違うタイプだったかもしれないけど、この人でよかったなと思うこともある。馬と合う合わないも見ていますし、スタッフの日常の会話からその子の一面を発見するようにしています」

 ――それにしても池江厩舎のみなさんは本当に仲が良いですよね!

 「チームワークのいい厩舎にしたいという気持ちもあったので、進上金(賞金を得た馬主が、その都度関係者に支払うお金のこと)をその馬の担当者のみに払う形ではなく、厩舎のみんなで分け合うシステムにしました。私が調教助手時代、いくら努力してもなかなか成果が出ない。結果が伴わない時があったんですね。昔は20馬房を34頭でまわしていたので、1、2カ月丸々レースに出られない馬が居たりもしました。担当馬2頭のうち1頭がそういった馬なのに、他のスタッフは2頭ともオープン馬だったら嫌になるでしょう?一体なにが違うんだって。それを運だけで済ませたらかわいそうだと思うのです。それならみんなで進上金を分け合えば、担当馬に競馬に行かない馬がいても、未勝利で苦しんでいる馬がいても、その子にもそれなりの報酬をあげることができますからね。全員で全28頭の競馬を楽しみましょうというシステムにしました。弊害もあったりもしますが、いい部分の方が大きかったと思いますし、みんなが仲良く協力し合ってくれているので、よかったなと思っています。うちの厩舎の仲の良さは東西の中で一番だと自負しています。それが調教師として一番の調教師みょうりに尽きますね」

 ――これだけ多くの有力馬を生み出すには、チームワークの良さ以外に一体何が要因となっていると思われますか?

 「これも限界の話になりますが、厩舎で出来ることにも限界があります。うちは牧場とのコミュニケーションを密にやっており、これもトレセン内で一番連携がとれていると自負しています。ノーザンファームしがらきなど各牧場に第2の厩舎があるようなもので、彼らとのコミュニケーションを大切にしています。そのため、私は週に1回は必ずどこかの牧場に馬を見に行きます。そこの場長と電話で話しているだけでは、お互いに意思疎通ができない部分もありますし、それこそ百聞は一見にしかずです。当歳馬や1歳馬であれば1週間じゃそこまで変わらないですが、現役競走馬となると大きく変化がありますからね。なので、1週間に1回は必ず見に行き、場長と1頭1頭打ち合わせをしています。

 ――これだけ多忙の中、牧場に顔を出し続けているのですか!?

 「好きなんでね(即答)」

 ――好きだからと言って、それがさらっと出来てしまうこともすごいですよね。好きでも疲れたから休もうという方が大多数だと思うので。

 「多分、僕にとってこれが趣味だからだと思います。牧場巡りも仕事とは別に好きだから、趣味だからと思っている部分もあるので。だから馬以外のほかのことはあまりしたい気にならないというか…」

 ――では、どういう時に喜びを感じますか?

 「馬を勝たせることが一番の喜びです。勝てない時もありますが、ずっと2ケタ着順で苦しんでいた馬が入着した時の感動。ましてや未勝利戦で勝った時の感動は何物にも代えがたい。それ以上に勝るものは僕の中では存在しません。だから一番好きなことに集中しているだけなんです」

 好きなことやロマンを追い続けることは大人になると難しいことでもありますが、池江先生は今も変わらず追い続けているからでしょうか?「2ケタ着順で苦しんでいた馬が入着した時、未勝利戦で勝った時の感動は何物にも代えがたい」とお話してくださった時の池江先生の笑顔は、心からうれしそうな笑顔で、一瞬少年っぽい表情だったのがとても印象深かったです。この時の表情をみんなにも見せたかったなぁ。本当に純粋な笑顔でした。次回はインタビュー編最終回!父である池江泰郎元調教師との関係性や、調教師になろうと決意した意外なきっかけ、そしてスタッフへの思いなどをお伝えしたいと思います!お楽しみに!

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 ▼桜井 聖良(さくらい・せいら)タレント。競馬予想で来ない人気馬・来る穴馬を選ぶのが得意で、生放送番組でWIN5と予想したメーンレースを全的中させた経験を持つ。2011年から1年半、馬の勉強をする為オーストラリアに留学し、馬のマッサージが特技となった。尊敬する人物は大川慶次郎さんで、憧れる人物は鈴木淑子さん、原良馬さん。

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