【ジャパンC】オルフェ池添「勝つだけ」世界に見せる魂の騎乗
競馬の祭典「第32回ジャパンC」(25日、東京)で凱旋門賞2着のリベンジと、G1・6勝目に挑むオルフェーヴル。フランスでの2戦に騎乗したクリストフ・スミヨンから、今回はデビューから宝塚記念まで14戦の手綱を取り続けた池添謙一(33)の手綱に戻る。無二の相棒を失って一時は落ち込んだと本音を吐露したが、今はもう勝つしかないと腹を決めた。池添ここにありという魂の騎乗を、世界のホースマンに見せつける。同馬は21日、注目の最終追いに臨む。
【ジャパンC】
夏の札幌。オルフェーヴルの鞍上から降ろされ、池添は落ち込んでいた。凱旋門賞に向け、パワーアップを狙って取り組んできたトレーニングも、いつしかやめていた。そんなとき、蛯名から、こう声を掛けられた。「腐ったら駄目だ。頑張っていればいいことがある」。ハッとした。池添自身に腐ったつもりはなかったが、周囲からそう見られているのは、腐っていたのと同じだ。いけない。いつかオルフェが自分の元に帰ってきた時、その鞍上にふさわしい騎手になっておかなければ。この日を境に、池添の顔つきが変わった。
落ち込むのも無理はなかった。デビューから14戦、手綱を取り続けた。ゴール後に振り落とされた。道中で逸走したこともあった。大敗も喫した。共に苦労した先に3冠、有馬記念の栄光、そして宝塚記念での劇的復活があった。ところが肝心のフランス遠征。手綱は現地の名手の手に渡った。大一番、結果は地元の伏兵に差し返されて2着。その心中はいかばかりだったか。「凱旋門賞は勝ってほしかった。乗れなかった悔しさは一生残る。自分だけが知っている背中。そうありたかった。ディープインパクトの背中の感触を知っているのは武豊さんだけ。自分もそうでいたかった」
だが、気持ちはもう切り替わった。「国内復帰戦はJC。鞍上は池添」。7日に池江師が発表した時、周囲はさまざまに反応した。引き続きスミヨンでいくべきという声もあった。当の池添は、冷静に気持ちを固めていた。「今回は国内復帰戦とあって、より注目される。競馬ファンでなくても知っている馬で、絶対に結果を求められる。しっかり乗りたい」
15日、1週前追い切り。約4カ月半ぶりに、かつての相棒にまたがった。これこれ、この感触。池添は久々に心からの笑顔を浮かべた。「忘れかけていた背中だった。柔らかくてクッションが利いて、まさに別格。素晴らしい」。坂路で800メートル52秒9~200メートル12秒6。バトードール(5歳1600万)を4馬身ちぎり、止まることなく伸び続けた。「久しぶりに乗って、いい緊張感があった。息遣いがいいし、何も言うことがない。調子を上げる途中だった宝塚記念前とは比較にならない」。池添の言葉には覇気がみなぎっていた。
オルフェと離れたことで、池添は人間的に大きくなった。JCへの抱負からも、それがうかがえる。「今年はいいメンバーがそろう。中心はオルフェーヴルだ。この馬に乗る時は緊張感があり正直、楽しむ余裕はない。勝つことしか考えていない。僕にとって、凱旋門賞のリベンジとかは関係ない。とにかく、勝つだけ」。そうだ。その意気だ。勝って、池添という騎手の存在を満天下に示す一戦。世界が池添の騎乗に注目している。
◆池添 謙一(いけぞえ・けんいち)1979年(昭54)7月23日、滋賀県出身の33歳。父は池添兼雄調教師。98年にデビューし、JRA通算8835戦809勝。98年北九州記念(トウショウオリオン)で重賞初勝利、通算58勝。家族は元タレントの朝美夫人と2女。1メートル62、50キロ。血液型O。
【オルフェ&池添2012年の歩み】
▼3月18日(阪神大賞典=2着) 12頭立ての12番。前に壁をつくれず向正面で先頭に立つと、2周目3角で外ラチに向かって大きく逸走し、後方2番手へ。猛然と追い上げ、いったんは先頭に立つも最後は力尽きた。
▼4月29日(天皇賞・春=11着) 阪神大賞典に続いて大外枠からの発進。後方で折り合いを重視したが勝負どころでも上昇できず、自己ワーストの大敗を喫した。
▼6月24日(宝塚記念=1着) 1番人気には推されたが、単勝オッズはダービー以降では最高の3.2倍。中団から直線で三分どころを一瞬で突き抜けて快勝。
▼7月15日 サンデーレーシング主催の宝塚記念祝勝会の席上で、スミヨンとの新コンビで凱旋門賞に挑戦することが発表される。
▼10月7日(凱旋門賞=2着) 前哨戦フォワ賞を制しての参戦。直線で外から一気に先頭に立ったが、内に大きく切れ込みゴール前で失速。
▼11月7日 ジャパンCで池添と再コンビを組むことを池江師が発表。
▼11月15日 1週前追い切りに池添が騎乗し、坂路で800メートル52秒9。宝塚記念以来の騎乗となった池添は好感触。
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