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宝塚歌劇支局 2011年

新年の幕開けにふさわしい大作…蘭乃はな「復活―」で見事な変わり身

ネフリュードフ役・蘭寿とむ(右)と、カチューシャ役・蘭乃はな(C)宝塚歌劇団

 元日に開幕する蘭寿とむを中心にした花組公演、ミュージカル・プレイ「復活―恋が終わり、愛が残った」(石田昌也脚本、演出)の舞台稽古が30日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの模様を中心に報告しよう。

 「復活―」は、ロシアの文豪トルストイの同名原作の舞台化。映画や舞台で何度もくりかえし取り上げられており、宝塚でも1962年、春日野八千代、那智わたるの共演で舞台化されている。かつて愛した使用人の娘カチューシャが、娼婦に転落、無実の罪を着せられていることを知った貴族の青年ネフリュードフの贖罪(しょくざい)の日々を描いた作品で、正月からかなりヘビーなお話だなあと思って覚悟して見たのだが、これが宝塚ならではの愛のドラマに見事に脚色され、ラストにはうっすら希望すら垣間見え、新年の幕開けにふさわしい見応えある本格的な文芸大作に仕上がっていた。今回ばかりは石田演出特有の遊びは影を潜め、しかし、舞踏会、幻想のデュエットなど宝塚らしい華やかな味付けのまぶし方の間合いは絶妙。膨大な原作を要領よくダイジェストしながら原作のエッセンスも失ってはおらず、宝塚での上演としては理想的な舞台化となった。

 冒頭は、カチューシャ(蘭乃はな)が、無実の罪で逮捕され、裁判所に引きたてられる場面から。カチューシャが「私は無実!」と叫んだところで暗転、ネフリュードフ(蘭寿)とミッシィ(実咲凜音)の華やかな婚約披露パーティーの場面へと転換する。朝夏まなとを中心としたコサックのダンスなど宴たけなわにネフリュードフは裁判の陪審員として呼び出しがかかり、急きょ駆けつけた法廷でカチューシャと運命の再会をする。そこでネフリュードフが回想するカチューシャとの出逢いの場面へとさかのぼっていく。望海風斗らギルティーという10人のダンサーたちがネフリュードフを回想に誘うというミュージカル手法も効いている。

 ここまで息もつかせぬ展開で、見る者をぐいぐい引っぱっていく。原作の力もあるが、背景をセリフでうまく説明しながら要領よく展開していく脚色が見事だ。これは後半、カチューシャがシベリアに投獄されてからもこの手法が生きてくる。ネフリュードフの親友シェンボック(壮一帆)の人物設定をネフリュードフの対照として大きく膨らませたことも成功の要因だろう。なによりラストのカチューシャの決断に納得がいき、共感できたのは大きい。

 蘭寿は、自分のために転落した女性に対して一生を捧げる青年ネフリュードフを、疑問の余地なくぶれずに直情的に演じたところがよかった。受け身の役ではあるが見ていてそう感じさせなかったところが蘭寿のうまさか。

 カチューシャの蘭乃は、無垢な少女から一転、娼婦時代の変わり身が見事で、ドスのきいた低い声で汚いセリフを吐き捨てるところなど、これが同じ人かと思うほどだった。これがあって後半が生きたのはいうまでもない。歌唱もずいぶん充実してきた。

 シェンボックの壮は、物語の展開のキーマン的存在。役の陽の個性をうまくつかんだ雰囲気づくりが全体の暗さを救った。セリフにやや流れるところがあったのが惜しい。

 あとはネフリュードフの婚約者ミッシィを演じた実咲が抜擢に応えた。可憐で華やかな雰囲気もあり、娘役としての実力は抜きんでている。

 一方、ネフリュードフの友人で革命家のシモンソンに扮した愛音羽麗は、出番はそれほど多くないが、物語のカギを握る人物らしく常に存在感をたたえた好演。カチューシャとの場面がもう少しあれば完璧だった。

 あと弁護士ファナーリンの華形ひかる。このところ何かつきものが落ちたような吹っ切れたような演技を見せているが、今回もさらに深みが増し、いい味を出した。

 朝夏は検事セレーニン。後半だけの出番だが、印象的な役どころでもうけ役だった。望海風斗、鳳真由といった期待の男役スターも見せ場があり、期待に応えた。

 ほかにシェンボックの恋人役アニエスの月野姫花がサヨナラ公演でやっとめぐってきた大役を生き生きと演じていたのが印象的。女革命家マリア役の花野じゅりあもよく雰囲気が出ていた。

 ショー「カノン」(三木章雄作、演出)は、三木氏らしくクラシックの名曲やカンツォーネをふんだんに使用したイタリアンテイストのしゃれた明るいダンスショー。プロローグで蘭寿がブルーの衣装から一瞬にしてピンクのタキシードに変身する鮮やかな早変わりが最初のみどころだ。蘭寿、蘭乃のトップコンビとともに壮、実咲の「カナリア」コンビがふんだんにフィーチャーされ、フィナーレは「アルビノーニのアダージオ」をバックにダブルデュエットでしめくくる。トップコンビが2番手の歌で踊るといったパターンはあったが、ダブルデュエットというのはあまり見たことがなく、限りなくトップに近い壮の立場が明確になったようだ。

 場面的には美術館の中で蘭寿が絵から現れた妖しい女に扮した蘭乃と運命的な出逢いをするタンゴをベースにしたダンス(KAZUMI―BOY振付)がレベルが高く見応えがあった。朝夏、望海、瀬戸かずやによる「ヴォラーレ」から始まり「アル・ディ・ラ」などを歌い継ぐ懐かしのカンツォーネメドレーも楽しい。若手では柚香光の美しさが際だって印象的。一方、望海はフィナーレのエトワールで登場。「オンブラマイフ」のさわりを力強く熱唱した。

 「復活―」「カノン」と、今の花組の充実ぶりがうかがえる内容、新年早々幸先のいいスタートになりそうだ。

 年末ぎりぎりに宙組トップ、大空祐飛の退団発表があった。来年7月1日東京公演千秋楽で退団する。退団会見には「一番似合うと思う」というグレーのパンツスーツで登場。「“クラシコ・イタリアーノ”でようやく男役が面白くなってきたと感じることができたので卒業を決意した」と退団理由。ターニングポイントになった作品として「銀ちゃんの恋」をあげた。退団後は「長年男役生活だったので一気に(普通の女性には)戻れないと思う。自分のライフスタイルを貫きたい」と話すにとどめ「退団まで男役をまっとうしたい」と話していた。

 次回は雪組バウ公演の模様を報告します。お楽しみに。

[ 2011年12月30日 ]

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筆者プロフィール

【薮下 哲司(やぶした・てつじ)】
大阪府生まれ。関西大学文学部仏文科卒。71年スポーツニッポン新聞大阪本社入社。77年文化部に配属、放送、音楽などを担当後、現在、特別委員として映画、演劇を担当している。宝塚歌劇は80年から担当、劇団発行の「宝塚グラフ」バウ公演評「歌劇」新人公演評を歴任。著書に「宝塚の誘惑」(共著)「宝塚伝説」「宝塚伝説2001」「宝塚歌劇支局」(青弓社刊)がある。05年、毎日文化センター(大阪)で「タカラヅカの魅力」講座を開設、07年から甲南女子大学非常勤講師に、宝塚講座を持っている。

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