乙武洋匡氏 競技の日程時刻は選手ファーストであってほしい

[ 2021年8月8日 05:30 ]

乙武洋匡氏
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 【乙武洋匡 東京五輪 七転八起(14)】サッカー男子・3位決定戦。日本はメキシコに力負けを喫し、惜しくもメダルを逃した。チーム最年少ながら攻撃陣を率いてきた久保建英選手が人目もはばからずにピッチ上で号泣する姿は多くの人の胸を打った。日本サッカー界にとっては実に悔しい試合として記憶に刻まれることとなったが、この試合は前日に開始時間が変更されるというアクシデントに見舞われていた。

 当初、同日の午前11時にはサッカー女子の決勝戦スウェーデン対カナダが行われるはずだった。しかし、酷暑のなかで試合が行われることを懸念した両国サッカー協会がIOCに試合開始時間の見直しを要求。これが認められ、午後9時開始、さらには試合会場も変更された。しかし、これだと男子の3位決定戦と時間が重複してしまうので、日本対メキシコの試合が2時間繰り上げられたのだ。

 時間変更は相手にとっても同じ条件なので勝敗に影響があったとは考えづらい。だが、久保選手もメキシコ戦後に、「日程は正直、ありえないと思う。こんな短期間で6試合、試合前日に変更もされた。勝って文句を言いたかったけど、負けたので」と直前の変更に困惑した様子を見せていた。

 女子マラソンで8位に入賞した一山麻緒選手は、スタート時間が1時間早まったことを前夜に、それも布団に入ってから聞かされたことで動揺し、朝まで寝付けなかったことを告白している。レースの2週間前から午前7時スタートに合わせて生活していたという。

 この時期の酷暑は、初めから分かっていたことだ。それでも多くの競技日程が炎天下である日中に組まれているのは、放映権を持つNBCへの配慮からだと言われている。サッカー女子決勝の時間変更が認められたのも、事前の予想に反して米国代表が決勝に進めなかったからだろう。

 選手ファーストであるべき五輪が、いつしか資金ファーストになってしまってはいないだろうか。今回の教訓を、ぜひ今後に生かしてほしいと思う。

 ◇乙武 洋匡(おとたけ・ひろただ)1976年(昭51)4月6日生まれ、東京都出身の45歳。「先天性四肢切断」の障がいで幼少時から電動車椅子で生活。早大在学中の98年に「五体不満足」を発表。卒業後はスポーツライターとして活躍した。

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