乙武洋匡氏 “河村騒動”に見た「女性を抑圧する男性権力者」の構図

[ 2021年8月6日 05:30 ]

乙武洋匡氏
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 【乙武洋匡 東京五輪 七転八起(12)】「最大の愛情表現だった。迷惑を掛けているのであれば、ごめんなさい」

 報道でこのコメントを目にして、この方は何も本質を理解していないのだと心から失望してしまった。河村たかし名古屋市長のことだ。激闘の末に13年ぶりの金メダルを獲得したソフトボール日本代表。投手として大車輪の活躍を見せた後藤希友選手が、河村市長を表敬訪問した。金メダルを首にかけてもらった市長は「重たいな」とひと言つぶやくと、突然マスクを外して、ガブッとメダルをかんでみせた。メダルの所有者である後藤選手の了解を取ることもなく行われた非常識なパフォーマンスだった。

 この行動にSNS上で一斉に批判が噴出したことで市長が出したコメントが冒頭のものだ。このコメントに私は既視感を覚えた。そう、セクハラの加害者が必ずと言っていいほど口にするコメントと恐ろしいまでに酷似しているのだ。自らの愛情表現が万人に受け入れられると勘違いしている痛々しい点までが類似している。

 ネット上では、被害に遭ったのが女性だったことに注目するコメントも散見された。これが、例えば柔道男子100キロ級で金メダルに輝いたウルフ・アロン選手のような大柄な男性が相手だったとしても、果たして河村市長は同様の行動に出ただろうかと疑問を呈するコメントもあった。

 私自身、こうした指摘を目にするまでは気付くことができていない視点だった。日常的にいかに権力をかさに着た中年男性に女性たちが抑圧されているのか。そうした構図に改めて気付かされ、恥ずかしくなるとともに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 今回はたまたま河村市長の行動がクローズアップされたが、企業などでも似たような事案が起こっている可能性は十分にある。権力を持つ側にいる者こそ、相手の心情をおもんぱかることを忘れずにいたい。

 ◇乙武 洋匡(おとたけ・ひろただ)1976年(昭51)4月6日生まれ、東京都出身の45歳。「先天性四肢切断」の障がいで幼少時から電動車椅子で生活。早大在学中の98年に「五体不満足」を発表。卒業後はスポーツライターとして活躍した。

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2021年8月6日のニュース