大河「麒麟がくる」 家康の母役・松本若菜 美しい泣き顔が生んだ説得力

[ 2020年6月1日 13:00 ]

NHK大河ドラマ「麒麟がくる」で於大の方を演じた松本若菜(C)NHK
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 【牧 元一の孤人焦点】NHK大河ドラマ「麒麟がくる」の女優陣は華やかだ。川口春奈、木村文乃、門脇麦、尾野真千子、檀れい、石川さゆり…。5月31日の放送では、この人もいたんだ!と目が覚める思いをした。

 徳川家康の母・於大の方を演じた松本若菜(36)。今川義元の味方をして織田信長と戦おうとする家康(当時の名は元康)の気持ちを、自分の文(ふみ)で変えさせる重要な場面があった。

 母と子が織田側と今川側に分かれたため、会えなくなって16年。於大の方は、今川から元康を離反させるようとする信長に「実はこういう話もあろうかと思い、元康に、つたない文をしたためてまいりました。『もはや道ですれちごうても、わが子とわからぬ、愚かな母であるが、この戦(いくさ)で、わが子が命を落としたと聞けば身も世もなく泣くであろう』と書きました」と話す。

 元康がその文を読む場面で、於大の方が涙を流すところが映し出される。その泣き顔が実に美しい。元康は母親の泣き顔を実際に目にするわけではないのだが、その美しい泣き顔の映像を流すことによって、こんな母親に願われたら息子は必ず心を動かすだろうと思わせる説得力が生まれた。

 プロデューサーの中野亮平氏は「台本の於大の方は終始泣きじゃくっていて、どちらかといえば弱々しいしい印象だった。しかし、松本さんのお芝居はとても淡々としていて、表情がさほど変わらない中で次第に両目から大粒の涙があふれてくる。このお芝居の設計にキャラクターの奥行きを感じた」と称賛する。

 松本は07年に特撮ドラマ「仮面ライダー電王」の主人公の姉役で女優デビュー。09年に映画「腐女子彼女。」で初主演し、17年には映画「愚行録」でヨコハマ映画祭助演女優賞を受賞している。

 中野氏は「『愚行録』からずっと気になっていた。はかない雰囲気の中にも意志を感じさせる強いまなざしが印象的だった。於大の方の思いの強さを表現でき、なおかつ家康(風間俊介)と、きちんと母子に見える大人の女性ということでオファーさせていただいた」と説明する。

 初めての大河出演となった松本は「演じるにあたって調べると、於大の方は何よりも強い母だと感じました。そして、どれほど家康に愛され、家康を愛していたか」と振り返る。事前に東京・小石川の傳通院で於大の方の墓参りをしたそうで「立派な墓を目の前にして、さらに母と子の絆を感じ、演じることへの覚悟がより一層深まりました」と明かす。

 涙を流す場面については「自分の立場、置かれている状況、行く末、そして何よりも子の命を案ずる母の気持ちをいかに演じるか、監督と何度もセッションを重ねました。リハーサルの時から気持ちを作り、本番は文を読むほどに、ただただ子への思いが爆発するような感じで演じました。もう歴史で知っていることですが、この親子には幸せになって欲しいですね」と笑った。

 中野氏は「家康の根っこの部分をきちんと印象付ける役割を、きっちり果たしていただいた。松本さんは所作もとても美しいので、もっと時代劇で見てみたい」と話した。大河は女優の新たな魅力を生み出して活躍の場を広げる場でもある。

 ◆牧 元一(まき・もとかず)1963年、東京生まれ。編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在は主にテレビやラジオを担当。

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