石原慎太郎氏 金田さんの思い出語る ジャイアンツ移籍に大反対した理由

[ 2019年10月8日 09:00 ]

金田正一さん追悼

石原慎太郎氏
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 元プロ野球投手の金田正一(かねだ・まさいち、享年86)さんの死去から一夜明けた7日、生前親交があった作家の石原慎太郎氏(87)がスポニチ本紙に追悼のコメントを寄せた。金田さんが400勝を挙げた直後に引退を勧めた石原氏。当時のやりとりや思い出を明かした。

 彼とは山中湖の別荘が隣でね。よく一緒にゴルフをしました。

 1965年にジャイアンツに移籍する時には、僕が大反対してね。「なんで今更、一番強いチームに行かなきゃいけないんだ。負け続ける国鉄スワローズを君一人が支えている、そこに金田正一の男があるんじゃないか」と。

 ヘミングウェーの有名な言葉に「勝者には何もやるな」というのがあるけれど、「この言葉こそ君にふさわしい。それほどの大投手なんだ」と彼に言ったんだ。同じように69年に400勝する時には彼もなかなか勝ち星を挙げられなくてね。くどくど言い訳してたからキツく言っちゃったこともあって、彼から「アンタなんでいつもワシに厳しいんや」と言われたんだ。だからその時にはっきりと「君が好きだからだ。日本一の大投手だから黙ってはおられないんだよ」と説明したんだ。そういう中での400勝達成だったから「これを区切りにスパッとやめちまえ」と言ったんだ。

 そういえば、この時に彼が「これから何したらええんや」と言うから「君の左腕をもってすれば、テニスでチャンピオンになれるかもしれない。凄いサービスを打てる。君がテニスプレーヤーになったら大変なことになる」と勧めたんだ。すると「テニスは金になるんか?」と言うので「それはどうかなあ」と答えたら「金にならんのか。なら、やらん」と。彼らしい飾らない真っすぐな言葉で今でも印象に残ってます。

 当時の周囲はジャイアンツファンばかりで、野球中継が始まると、みんな仕事どころじゃない。そこに立ちふさがっていたのが、孤軍奮闘する金田正一だった。やはり象徴的だったのは、鳴り物入りで巨人入りした黄金ルーキー長嶋を迎え撃った4打席連続三振。すると、周りのジャイアンツファンたちが「これでいいんだ」と言うんだ。「これで、長嶋は一流の選手になる」と。その言葉に、金田正一という男がいかなる存在であったかが分かる。実際、長嶋はその翌年の開幕戦で金田からホームランを打ち返すわけだから、凄くドラマチックな話ですよ。

 とにかく寂しいね。私の1つ年下だったかな。親しかった人たちが次々と亡くなっていくのは寂しいもんですよ。

 彼の姿で一番印象に残っているのは、ゴルフをしながらでも合間合間に体操したり、左腕をさすっていた。どんな時もプロ野球選手として体をケアしていた。左腕をさすりながら「この腕が日本のプロ野球に何億も稼がせたんや」と誇らしげに言っていたね。そういうプライドを持って「昭和」という熱い時代を生き抜いた男だった。(談)

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