野木亜紀子氏「アンナチュラル」法医学ドラマの既視感に挑戦状 IFの世界描き新鮮さ演出

[ 2018年2月9日 09:00 ]

金曜ドラマ「アンナチュラル」に出演する石原さとみ(右)と井浦新(C)TBS
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 石原さとみ主演のTBS金曜ドラマ「アンナチュラル」(金曜後10・00)は、法医解剖医が不自然な死の裏側にある真実や事件を明るくスリリングに解明していく、一話完結型の法医学ミステリー。数多くの人気作が生まれている“法医学ドラマ”の中でも異色と言われるストーリー展開で人気を博している同作について、「逃げるは恥だが役に立つ」(16年)を大ヒットさせ、「アンナチュラル」でますます注目を集める脚本家の野木亜紀子氏に聞いた。

 ◆法医学ドラマ初脚本 教科書は5冊…「山のような資料」と格闘する日々

 野木氏が法医学ドラマの脚本を手掛けるのは今回が初めて。「資料を山のように読みました。法医学の教科書を5冊と分厚い資料ファイルを常時持っていましたね」と“猛勉強”の日々を述懐する。初回放送では国内でまだ発症例のない「MERSコロナウイルス」を扱った。「何せ日本ではまだ臨床実績がないので、資料を取り寄せたりして…」と情報収集の面での苦労があった。

 2話、3話は同じ殺人事件でも凍死、出血性ショックと死因は全く異なる。「各回によって法医学の先生や感染症の先生、臨床の先生や弁護士の先生まで、いろいろな方にお話を聞いて、矛盾や間違いがないか確認しながら物語をつくるというのが大変な作業でした」としつつも、「同じ溺死でも、法医学の教科書によって違う情報が書かれていたりするのが面白いですね」と初めてならではの楽しみも。話作りでの苦労については「下手をすると、ただ犯人を探す“事件モノ”になってしまう。そこに、いかに法医学を放り込むか、というところが毎回話を作る上で大変」とし、「だからこそ(書いていて)面白いんですけど」とやりがいを口にした。

 ◆法医学ドラマの「やりつくされた感」に挑戦状 今までにない切り口を追求

 「そもそもこのドラマは、女性主人公の法医学ドラマを作らないかと言われてスタートしたんです」と出発点を語る野木氏。「内容は好きにしていいと言われたんですけど、今までの法医学ドラマは『死者の声を聞く』というスタンスがほとんど。その視点はやりつくされた感があったので、何か新しい切り口はないか」とリサーチを重ねたという。

 発想のきっかけとなったのは2012年から内閣府が主導して行われた「死因究明等推進会議」。「先進国最低の解剖率の日本の現状を変えようと、厚労省、文科省、警察庁が話し合ったんですけど、立ち消えになってしまって。これが成立していたら…という切り口なら」とIFの世界を描くことで、視聴者にとって新鮮な設定が可能に。「解剖って縁遠い事象だと思われがちですが、私たちの未来にかかわるもので、いかに生きている人たちに関わってくるのかというところを描くドラマにすれば、今までにないものが作れるのかなと思いました」とドラマの主軸となる“テーマ”を決定。「たとえば、初回に出てきたMERSも日本ではまだ発症していないということにはなっているけど、気づかれていないだけで感染して死んでいる人がいるかもしれない。解剖してしっかりと死因を究明しないと分からないわけで、それは遺族だけではなく、生きているすべての人の未来に影響がある」という。

 加えて「法医学者という“職業”の切り口」も大きなテーマの1つ。「多くのドラマに登場はしているけど、法医学者っていったい何?というところが意外と知られていません。細かいところで言えば、法医解剖医は解剖するだけじゃなくて法廷で凶器について証言したりもするので」と“職業”そのものにも着眼した。

 第3話(1月26日放送)では、主人公・三澄ミコト(石原)が法廷に立って凶器について証言。第4話(2日放送)では、交通事故で死んだ父親の死因を究明することで責任の所在を解明する。交通事故の責任の所在を明確にすることも、法医学の仕事の一つだという。「UDIラボ(不自然死究明研究所)という架空の研究所を舞台に法医学という職業を紐解きながら、エンタメが詰まったドラマをつくりたかった」という。

 野木氏は放送が開始する以前から「法医学ドラマの隙間の面白さが見つかった」と語っていたが、まさにその隙間の面白さに視聴者は「今まで見たことがない法医学ドラマ」の姿を見ている。

 9日放送の第5話では、鈴木巧(泉澤祐希)という人物が、溺死し、警察に自殺と判断された妻の解剖をUDIに依頼しにやって来る。早速、解剖に取り掛かるミコトたちだったが、実は鈴木が持ち込んだのは葬儀場から盗んだ妻の遺体で、つまり執刀医のミコトは、死体損壊罪という大罪を犯していた…というストーリー。物語の後半戦へとキーとなる重要回で、ますます熱を帯びる展開に注目が集まっている。

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