劇団「イキウメ」前川知大氏 原点は小5「幽霊新聞」人気に安住せず「毎回リセット」

[ 2017年10月27日 08:00 ]

劇団「イキウメ」主宰・前川知大氏インタビュー(下)

劇団「イキウメ」を主宰する劇作家・演出家の前川知大氏(撮影●(さんずいに首=みなもと)忠之)
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 劇作家・演出家の前川知大氏(43)が主宰し、SF・オカルト要素を盛り込んだ唯一無二の世界観が観客を魅了してやまない人気劇団「イキウメ」の代表作「散歩する侵略者」が27日、東京・三軒茶屋のシアタートラムで開演する。ホラーの巨匠・黒沢清監督(62)が映画化して今年9月に公開された人気作。6年ぶりの再演となる。稀代のストーリーテラー・前川氏を直撃した。

 今、最も脂が乗っている脚本家・演出家の1人。2003年にイキウメを結成。代表作の1つとなる「散歩する侵略者」は3年目の05年に初演されている。07年には、前世と現世を題材に、佐々木蔵之介(49)と仲村トオル(52)の2人芝居「抜け穴の会議室」を作・演出。08年には、終末論を題材に、佐々木や市川亀治郎(現猿之助)(41)らと組み「狭き門より入れ」を作・演出、PARCO劇場に初進出した。

 12年、ついに第19回読売演劇大賞の大賞・最優秀演出家賞(「奇ッ怪 其ノ弐」「太陽」)に輝く。若く健康な肉体に変異したものの、太陽光の下で生きられなくなった人間を描く「太陽」は14年に「太陽2068」として蜷川幸雄氏が演出し、16年には「SR サイタマノラッパー」の入江悠監督(37)により映画化された。

 今年は例年以上に精力的。落語と初コラボし、時間を切り売りする奇妙な街を描く「生きてる時間」(2月)、完全食を求め、122歳まで生き延びた男を描く「天の敵」(5〜6月)と傑作を連発したかと思えば、夏には演出・長塚圭史氏(42)と初タッグを組んだ「プレイヤー」(8月)。秋は代表作「散歩する侵略者」の映画化に加え、「関数ドミノ」(10〜11月)が瀬戸康史(29)主演により初の外部プロデュース公演として上演された。そして「散歩する侵略者」再演で“前川イヤー”を締めくくる。

 小さい頃に「ウルトラマン」や藤子不二雄作品の影響を受け、10代後半、映画シナリオの執筆を志した。東洋大学時代、自主映画を制作。その仲間が卒業後に劇団を立ち上げ、そこに書き下ろしたのが最初の演劇脚本。その後、前川氏を座付作者に劇団を作ることに。それが03年、今のイキウメ。前川氏、29歳の時だった。

 30歳の主宰者とは、劇団を始めるには年を重ねていたため「2年やって、お客さんが増えなかったら、やめよう」と腹をくくっていたが、3公演目(2年目)で動員1000人を超え、それから10年以上にわたり、オリジナル作品にこだわった上演を続け、人気劇団への階段を着実に上っていった。

 超常的な世界観で今や確固たるポジションを築いたものの、この間、手応えは「あまりありませんでした」と振り返り「それは今も変わらないですね」と明かした。

 「たぶん劇団が続いているのは『これで行ける』というような安心をしないからだと思うんです。そう思っちゃった瞬間に(劇団は)終わるので。毎回、芝居の作り方すら忘れる時がありますもん。どうやって本を書いていたっけ、どうやって稽古するんだっけ、と。再演ですら、そうですから、新作の時なんて、もう本当に全部、手探り。1回1回、作品を作るだけなんです。毎回リセットして、結局、僕らは毎回どうやって作品作りに向き合うかしかない。公演が終わった後に『うまくいった』と思う時はありますが、『ここから先がうまくいく』みたいなことはあまり考えません」。無心で“1回入魂”を積み重ねてきただけだった。

 SF・オカルト要素は、子供の頃から好きだった。小学5年の時、友達と「幽霊新聞」なる壁新聞を作った。「学校がすごく古く、創立110周年の木造校舎で、至る所に“いわく付き”の怖い話がいっぱいありました。それで、いろいろな人に怖い話を取材して回って、壁新聞にまとめて。そこには、ちょっとした創作もあったんですけど(笑い)。友達や先生が壁新聞を読んで怖がってくれたのが楽しかったですね」。稀代のストーリーテラーの原点だった。

 最後に今後について尋ねると、まずは「オリジナル作品にこだわるのは、変わりありません」と宣言。「次回の劇団公演のテーマはテクノロジーと宗教。うちの劇団はSF・オカルトと言われますが、SFはテクノロジー寄り、オカルトは宗教寄りという点で言うと、いつもその境目を描いているつもりです。新しい発明のたびに社会を変えるテクノロジーには非常に興味があって、その点、うちの作風は現代とつながっていると思っています。最近はAIの発達で『人間って何?』という根源的な問いが生まれたり。その辺とスピリチュアルなものをつなぐ作品が、しばらく続くような気がしています」と展望した。

 前川氏の“次の一手”が注目される。

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