劇団「イキウメ」傑作SFホラー「散歩する侵略者」6年ぶり再演 前川知大氏「直球で」

[ 2017年10月27日 08:00 ]

劇団「イキウメ」主宰・前川知大氏インタビュー(上)

劇団「イキウメ」の「散歩する侵略者」の1場面(前回2011年公演から)(撮影田中亜紀)
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 劇作家・演出家の前川知大氏(43)が主宰し、SF・オカルト要素を盛り込んだ唯一無二の世界観が観客を魅了してやまない人気劇団「イキウメ」の代表作「散歩する侵略者」が27日、東京・三軒茶屋のシアタートラムで開幕する。ホラーの巨匠・黒沢清監督(62)が映画化して今年9月に公開された人気作。6年ぶりの再演となる。稀代のストーリーテラー・前川氏を直撃した。

 「散歩する侵略者」は05年初演。07年、11年と再演を重ね、4回目の上演になる。

 海に近い町に住む真治(浜田信也/映画版=松田龍平)と鳴海(内田慈/映画版=長澤まさみ)の夫婦。真治は数日間の行方不明の後、まるで別の人格になって帰ってきた。素直で穏やかだが、どこかちぐはぐで話が通じない。不仲だった夫の変化に戸惑う鳴海を置いて、真治は毎日散歩に出掛ける。町は一家慘殺事件が発生し、奇妙な現象が頻発。不穏な空気に包まれる。取材に訪れたジャーナリストの桜井(安井順平/映画版=長谷川博己)は“侵略者”の影を見る――。

 もともと再演希望の声も多く、チャンスを探っていた。映画化と連動し、小説の文庫版(角川文庫)も出版。前川氏は「いろいろと演目そのものを見直す機会が増えました」と再演を決定。ただ「必ずしも映画の公開と同時期になるかは分かりませんでした。運良くタイミングが合いました」。相乗効果が見込まれる。

 05年版、07年版の脚本をブラッシュアップし、11年版は完成形。今回は、劇団最年長の森下創(43)が演じる丸尾(映画版=満島真之介)を若者のニートから年齢に合った設定に書き換えた以外、ほぼ手を入れなかった。一方の演出。11年版は「演劇は時代の影響を受けるので」東日本大震災直後の雰囲気が色濃く反映したが、今回は「そこから自由に作りたい。この本が強く持っているSFホラーの要素をある種、直球でやりたいと思っています」と稽古開始2週間時点のプランを明かした。

 具体的には“引き算の演出”で、舞台セットは「ある種、心象風景みたいな、ものすごくシンプルになると思います」。そして「この物語の力が非常に強いので、どこまで俳優だけで表現できるかという見せ方をしたい。それは、観客の皆さんにとってはすごく想像力を働かせて見ていただかないといけないんですが、見えるものがすべての映画と違い、観客の皆さんの脳内で完成するものにしたいと思っています」と方向性を示した。

 もともとは「宇宙人もの」と「もはや疑わない前提、例えば国という概念が分からなくなったら、人間はどうなるか」というアイデアをミックスして生まれた脚本だが、初演時は「結構サクッと書けちゃったので、あまり覚えていないんです」。舞台上で人間がどういう状態になると、一番怖いか。「舞台上で生身の人間が死ぬことは、最後はカーテンコールに立っちゃうわけなので、リアリティーがありません。死の代わりになるほど怖いのは、コミュニケーションが取れなくなること。例えば国という概念が分からなくなってコミュニケーションが取れなくなると、舞台上でその人間が死んだかのような喪失を描ける。宇宙人が登場してバタバタと人間を殺していくことの代わりに、何をやれば怖いのか。『当たり前だと思っていることが分からなくなる』というアイデアが出たんです」。この発想が傑作を生み出した。

 当初、代表作になる予感は「なかった」という。「初演の劇場入りする前の時、みんなで飲んでいて、役者が『これ、100%傑作でしょ』みたいなことを言って、僕は『そうなんだ』みたいな感じだったのを覚えています。書いている時は必死で、あまり分かりませんでした」。それが敬愛する黒沢監督が映画化するまでに。それでも「あの時の自分、よく思い付いたなぐらいしかありません」と苦笑いしつつ「時代が変わっても、その都度、違う形で世の中とつながれる作品。そこはよかったと思いますね」と愛着を示した。

 17年版「散歩する侵略者」の仕上がりが期待される。

 ◆「散歩する侵略者」公演日程【東京公演】10月27日(金)〜11月19日(日)=シアタートラム【大阪公演】11月23日(木)〜26日(日)=ABCホール【福岡公演】12月3日(日)=北九州芸術劇場中劇場

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