【夢中論】沢村一樹はシネマ男爵 初めて見たキングコングに心奪われて

[ 2017年10月24日 10:20 ]

少年時代から映画好きの沢村一樹
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 時間さえあれば、自宅で映画観賞にふける俳優の沢村一樹(50)。演技に役立たせるために見ていても、面白いと仕事を忘れて没頭する。物心ついた頃からずっと映画ファン。主戦場はテレビドラマながらも、役者として成功した幸運をかみしめ、いつか納得できる作品で自分がスクリーンに映し出されることを願っている。

 リビングのソファに座ると、テレビをつける。普通の人ならそのまま番組を見るところだが、沢村は動画配信チャンネルに合わせ、その日の気分で作品を検索する。昼間は自然光で電気はつけず、夜は最小限の照明で薄暗く調節。後は作品が期待以上の出来栄えなら、これ以上ない至福の時だ。

 「映画を見るのが、もはや生活の中のクセになっていますね。3日間空くと、見てないなぁとソワソワしちゃう」と笑う。タイトなスケジュールだった主演ドラマ「DOCTORS〜最強の名医〜」の撮影中でも、睡眠時間を削ってまで見ていたほどの映画中毒だ。

 「役を演じる上で見ておきたいな、という時もあります」と参考資料として見るケースもあるが、最初の15分で「これは面白い」と確信すると、仕事を忘れてのめり込む。

 「テンポが速くて引き込まれる時もあれば、ジワーッと体が沈むように引き込まれる時もある。どんどん映画の世界に入り込んで、体が思わず前のめりになる感覚が大好きなんです」

 そんな感覚になるのはハリウッド大作よりも、ミニシアターでかけられるようなインディーズ系の作品の場合が多い。最近では米国の新感覚ホラー映画「イット・フォローズ」、ろう学校での性的虐待事件を扱った韓国映画「トガニ」にくぎ付けになった。しかし、いくら高評価でも邦画を見ることは少ない。

 「カットの数やカメラの角度が凄く気になる。同じシーンを角度を変えて何度も撮ることはあるけど、変な撮り方をされると気持ちの流れが完全に寸断されて、カチンとなるんです。邦画を見てると、役者さん、ここで感情を止められたんだろうな、とか想像しちゃって映画に集中できないんです」

 海外の作品は「一緒に仕事をする機会がないから」気にならない。「日本の監督さんや俳優さんは現場で会う可能性があるので。嫌な印象を持ちたくないんです」と話すところにプロフェッショナルの顔がのぞく。

 子供の頃は純粋に映画が好きだった。幼い頃から映画館が遊び場で、スクリーンで初めて見た1976年公開の「キングコング」はリアルな映像に心を奪われた。ブルース・リー、007、スター・ウォーズなど夢中になったものは数え切れない。宮崎駿監督の「ルパン三世 カリオストロの城」も大好きだった。スクリーンの世界に魅了され「映画俳優になりたい」と思うようになったのも自然の流れだった。

 そんな気持ちを後押ししてくれたのは母親だった。母子家庭で決して裕福とは言えない環境だったが、映画に使うお金はできるだけ工面してくれた。役者を目指す心構えも教わった。歌手の森進一(69)が「上京した最初の日は野宿だった」というエピソードを何度も繰り返し、ハングリー精神の大切さも教え込んだ。もしも「役者になりたい」という子供の夢に「バカ言ってないで勉強しなさい」と言う母親だったら、今の沢村はなかったかもしれない。

 20歳の時、バイトで貯金した18万円を持って上京した。出発1カ月前には、東京の友人に「泊めてくれ」と手紙を送っておいた。ところが、友人宅に着くと鍵がかかったまま。ポストを開けると手紙が未開封のまま入っていた。友人は付き合っていた女性の家に入り浸りだった。

 「初日から公園で野宿ですよ。でも“森さんと一緒!”と思ったら凄く興奮して。この日のために母はあの話を何度も聞かせてくれたのか、と思いましたね」

 それから丸30年。夢にまで見たトップクラスの俳優となったが「50歳になると、残り時間がかなり計算できるんです。やり残したこともけっこうある。中でも僕は映画出演が少ないから、もっと出演したいという思いはあります」というのが率直な気持ちだ。

 とはいえ、何が何でも映画という思いはない。「映画は時間やスポンサーの制約が少ない分、独り善がりで全然面白くない作品もいっぱいある。この船、どこ向かってんの?みたいな。だから出演者やスタッフがチームとして機能している作品なら出たいですね」。ドラマの世界で積み上げてきた輝かしいキャリア。そのプライドが見えた。

 ≪目指すは“寡黙な飲み友達”≫沢村主演のテレビ東京「ユニバーサル広告社〜あなたの人生、売り込みます!〜」(金曜後8・00)は、町の小さな商店街の一角にある広告会社を舞台にしたヒューマンドラマ。同局の作品について沢村は「視聴者にこびていないのが好き」と独自路線に共感。テレ東作品は初主演となるが「友達同士で飲む時、ほとんどしゃべらないのに必ず誘われるやつっていますよね。いるだけで落ち着くやつ。そんな一緒にいたくなるドラマにしたい」と意気込んでいた。

 ◆沢村 一樹(さわむら・いっき)1967年(昭42)7月10日、鹿児島県生まれの50歳。雑誌「メンズクラブ」の専属モデルとして活躍後、96年に日本テレビ「続・星の金貨」で連続ドラマデビュー。00年にTBSの2時間ドラマ「浅見光彦シリーズ」で主演となり、以降12年間務めた。テレビ朝日「DOCTORS」、NHK「ひよっこ」など代表作は多数。

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