何かが違う。

[ 2017年10月21日 08:16 ]

タイピン使用前(9月7日)
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 【我満晴朗のこう見えても新人類】深まる秋の日、藤井聡太四段(15)の対局を取材しながら、どことなく違和感を覚えていた。具体的には写真撮影中。何だろう、この感覚。一眼レフのペンタプリズムを通して眺める中学生棋士の上半身に見慣れないものが……あっ。分かった。

 タイピンだ。

 念のため29連勝中の写真を確認する。どのカットを見ても、ネクタイを固定するアクセサリー類は一切見当たらない。

 いつから使い始めたのだろう。

 9月7日の新人王戦(対佐々木大地四段)=ない。

 同14日の順位戦(対佐藤慎一・五段)=これもない。

 同20日の王座戦(対小林健二・九段)=おっ。あった!

 ここから先は10月19日の王位戦予選(対小林裕士七段)まで、すべての対局で装着していることが判明した。

 「新手」だな。これ。

 分かる気がする。タイピンがないと、ネクタイは必然的に重力の法則に従い垂れることになる。通常の姿勢ならばさほど問題ないが、対局時はほぼ45度の傾斜角に上体を折り曲げて前傾姿勢を取るのが藤井のトレードマーク。加えて熟考中は上体を前後にショートピッチで刻み続ける習慣を持つ。当然ネクタイもその動きにつられ、小刻みな揺れを強いられる。もしかしたら、ものすごく気になっていたのかも知れない。

 そんな憂慮がタイピンひとつで一挙に解決するのだから、こんな便利なものはない。神は細部に宿るという。そんな一見どうでもいい細部にまで対応したのだとしたら、素晴らしい選択だ。

 「新手」採用後の成績にも驚く。未放映分のテレビ対局を除くと、10月19日時点で8連勝中。春先から夏にかけて社会現象となった29連勝には及ばないものの、天才の進撃はさりげなく確実に再開されたことになる。10月9日の叡王戦(対佐々木大地)のように終盤の不利を一気にひっくり返す逆転劇も見せるなど、相変わらずファンをうならせる内容。非公式戦とはいえ10月14日に配信されたAbemaTVの「魂の七番勝負」では、A級に5期連続で所属中の実力派・行方尚史八段(43)を下す快挙も演じている。

 フィーバー再びの予感が濃厚に漂ってきた。その契機が例のタイピンだとしたら…。

 次の藤井聡太グッズ、これで決まりかな。(専門委員)

 ◆我満 晴朗(がまん・はるお)1962年、東京生まれの茨城育ち。夏冬の五輪競技を中心にスポーツを広く浅く取材し、現在は文化社会部でレジャー面などを担当。時々ロードバイクに乗り、時々将棋の取材もする。

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