日本の総合格闘技は異次元に入った

[ 2017年10月20日 10:00 ]

15日の「RIZIN」で藤田大和に判定勝ちした那須川天心
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 【牧元一の孤人焦点】お!?と思った。10月15日の総合格闘技「RIZIN」のセミファイナル開始前に流れたのは、かつてプロレスファンが深い思いを抱いて聞いた「Training Montage」。高田延彦が現役時代、入場テーマに使っていた曲だ。

 1997年10月11日、ヒクソン・グレイシーとの大一番で、意を決した表情の高田がこの曲に送られて静かにリングへと向かう姿を、ファンならば鮮明に思い出すことができるだろう。

 今、リングに向かっているのは「アマチュアボクシングの天才」と言われる藤田大和。総合格闘技はこれが初戦だ。この曲を入場テーマに選んだのは、本人の希望なのか、大会運営側が高田対ヒクソン戦から20年ということで提案したのか不明だが、いずれにしても、長年にわたり格闘技を見続けているファンにとって心憎い演出だった。

 対戦相手は、これまで無敗で「神童」と言われる那須川天心。こちらの入場テーマは、無敗だったヒクソンが使用していた「ラスト・オブ・モヒカン」ではなく、いつも通りの矢沢永吉「止まらないHa〜Ha」。やり過ぎの演出になることは避けられた。

 那須川対藤田戦。19歳と25歳の対決。鮮度の極めて高いマッチメークに期待が高まる中、1Rから激しい攻防となり、那須川がカウンターの左ストレートで藤田からダウンを奪うと興奮はピークに達した。決着がつかないまま1Rが終わると、リングサイドの放送席にいた高田は「(1R5分だが)2分くらいしかたってないんじゃないの!?濃密すぎる」と2人の激闘ぶりを強調した。

 2Rでは、藤田がガードポジションになって再びピンチを迎えたが、くるりと体を入れ替えて反撃。初の総合格闘技戦とは思えない対応力の高さを示し、優勢に見える場面もあった。3Rで決着がつかず、判定の結果、那須川の勝利。藤田は負けたものの、無敗の那須川に初めてKO勝ち・1本勝ちを許さなかったことで、再戦への道筋を作った。

 素晴らしい試合だった。2人の動きはスピーディーで、攻撃は鋭角的だった。ハートの熱さも感じられた。事前に那須川と藤田に強い思いを抱いていなかったオールドプロレスファンの心にも深く響く一戦だった。本場・米国の「UFC」でも活躍した高阪剛は解説者として言った。「どえらいヤツが出てきた!」。そして、ヒクソン戦から20年を経た高田は言った。「これは異次元の戦いだ!」。

 この日は「異次元」を感じることがもう一つあった。メインイベントのRENA対アンディ・ウィン戦。2人は女性である。20年前、総合格闘技戦のメインをやがて女性が務める日が来るなんて、誰が予想しただろう。日本のファンの期待を背負ったRENAは入場時、流れるテーマ曲を口ずさんだり、曲に合わせて少し踊って見せたりした。そこには、高田があのヒクソン戦の日、「Training Montage」が流れる中で見せたような悲愴(ひそう)感のかけらもなかった。(専門委員)

 ◆牧 元一(まき・もとかず)編集局文化社会部。放送担当、AKB担当。プロレスと格闘技のファンで、アントニオ猪木信者。ビートルズで音楽に目覚め、オフコースでアコースティックギターにはまった。太宰治、村上春樹からの影響が強い。

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2017年10月20日のニュース